距離計カメラ用接写アクセサリ PLEASANT AUTO-UP


PLEASANT AUTO-UP I for RETINA IIa


PLEASANT AUTO-UP I for MAMIYA-6, for Pearl

接写補助具としてクラシックカメラ店でよく見かける,オートアップというアクセサリです.Pleasant というブランドから発売されていましたが,カメラ本体のメーカから正式に純正アクセサリとして認定,販売されるケースもありました.

多くの距離計連動式カメラは最短撮影距離が1m前後ですが,このアクセサリを取り付けることで1m 〜 50cm の間の距離の被写体にピントをあわせることが出来るようになり,ちょっとしたテーブルフォトを撮るような場合に大いに役に立ちます.

このオートアップは,以下に示す取扱説明書に書かれているように,発明者は島田貫一郎,レンズ系の設計はかの有名な小穴純博士によるものです.開発の経緯は当時の写真工業第5号に島田氏自らにより語られており,こちらで読むことが出来ます.かいつまんで紹介すると,島田氏はもともと写真家で光学や工学の知識のないアマチュアでしたが,戦前マミヤ光機創業者の間宮精一氏の写友であったことからマミヤ光機に入社したとのことです.このとき望遠レンズの付いた特殊なマミヤシックスを制作して使っていましたが,このカメラは3mまでしか接写ができず,これを解決するために自作したアクセサリがオートアップのもとになったと語っています.

戦後になって連動精度を改良するアイディアを思いつき,小穴教授に相談したところ優れたものと認められ,特許申請を推薦されるとともに,性能改善の指導やレンズ設計をしていただいたとのことです.その後,島田氏はオートアップの製作に専念すべくマミヤ光機を退社します.

このアクセサリでは,レンズの前に取り付けられるクローズアップレンズ(焦点距離 1000mm,1dp)と同じ度数の大きなレンズを長方形に加工し,接眼窓の手前に位置するようになっています.つまり,撮影用レンズと距離計が同じ度数のレンズを介して被写体を見るので,距離計でピントを合わせると自動的に撮影レンズ側でもピントが合うということになります.距離計補正レンズの位置がクローズアップレンズよりも少し手前へずれているのは,クローズアップレンズと距離計補正レンズの設計の違いによる誤差を吸収するためです.

どちらのレンズも単レンズで,色収差は補正されていませんが,上の記事にあるようにクローズアップレンズの焦点距離は撮影レンズよりもずっと長く,いわば度数の弱いレンズであるため,色収差は完全に無視できるレベルにあります.


レチナIIa用


小西六 パール用

パッケージの例を示します.レチナ用は,もちろんドイツ製カメラに対する国産アクセサリですから当然,非純正品としてのパッケージになっています.それに対しパール用の外箱には "KONISHIROKU PHOTO IND. CO,,LTD”と書かれており,小西六(コニカ)から純正アクセサリのような扱いで発売されていたことが分かります.以下に示す取説でも,パール用の取説は最下行の企業名が「小西六写真工業株式会社」名となっています.マミヤシックス用のオートアップにもマミヤ光機のマークが入っており,当時の雑誌に掲載されたマミヤシックスの広告でも紹介されています.このように,オートアップは単なるサードパーティ製アクセサリとは違った地位を確保していました.

裏面は反射防止のため黒色塗装されています(されていないものもあります).レチナ用で,距離計補正部の左上の突起は近接時のパララックス補正指標です.菱形にE.Pと書かれたマークがありますが,これは Exchange Post といい,進駐軍向けの売店で販売されたカメラ等に付けられているマークで,物品税が免税であることを表しています.


レチナ用に付属の取扱説明書は各機種汎用のもので,他にもライカ,コニカ,コンタックス,ニコン,キヤノン用や,その他汎用品があったことがわかります.一方,パール用のものは前述のとおりコニカ名になっています.

撮影例

F4.5 のヘキサーレンズを搭載したパールIIを用いた時の撮影例を以下に示します.


Pearl II w/ Hexar 75mm F4.5, F5.6


Pearl II w/ Hexar 75mm F4.5, F4.5

いずれも極めて鮮鋭で,ピントも正確に合っており,いささかの欠点も見いだせません.脱着も簡単で,ポケットに忍ばせておくだけでいざという時にすg近接撮影が可能となります.小西六パールやコダックレチナは直進ヘリコイド,マミヤシックスはバックフォーカシングでともにレンズ前玉が回転しないため,オートアップとは相性の良い機種であるといえます.