吸音材の入れ方について

スピーカーの製作記事を見ていると,エンクロージャ内壁に,比較的密度の高い吸音材を薄く入れているものをよく見かける.しかし吸音材は壁に近いほど効果が薄れ,また,周波数特性も偏ってしまう.なぜ壁に貼るのだろうか.確かに無響室では壁に吸音材が貼られているように見えるし,そもそも壁からの反射を防ぎたいのだから壁に貼るのが適切だと考えてしまうのも無理はないが,できるだけ大きな空間を確保したい無響室であっても,空間が許すなら吸音材は壁から離すほうが良いとされている(実際に外部の防音壁と吸音材の間にはいくらかの空間が設けられていることが多い).ましてや,エンクロージャの内部は用途のない空間であるし,利用される吸音材はむしろ壁から離さないと効果が低くなる性質を持つ.特に密閉形のエンクロージャでは,同じ量の吸音材であっても,エンクロージャ内部にふんわり均等に詰めるほうが効果が高い.

吸音材の働きについて

吸音材には大きく分けて2種類あると考えて良い.1つは圧力(音圧)に対して吸収効果を持つもので,もう1つは粒子速度について効果を持つものである.

音圧に対して吸収効果を持つ吸音材の1つは共鳴型のもので,ヘルムホルツ共振器のような,内部に空間を持ち,出入り口が細くなった構造物を配置するものである.これは特定の音波に対して共振し,出入り口の粒子速度が上がることで摩擦を発生させて音波のエネルギーを吸収する.代表的なものは,スタジオの壁にはられているような穴あきの板である.あの穴あきの板の向こう側には空間が設けられており,その空間と穴がヘルムホルツ共振器を構成している.さらに,パラメータの異なるヘルムホルツ共振器を並べてより広い帯域を吸収するようにしたものなどがある.しかしこれらはスピーカーの内部に使用されることはまずありえない.

そしてもう1つよく利用されるのは,グラスウールや綿などの繊維状の吸音材である.これは,繊維の間を空気の分子が移動するときに摩擦を起こし,それによって音波のエネルギーを吸収するものである.よって,このような吸音材は粒子速度が高い場所に設置するのが効果的である.言い方を変えると,粒子速度がほぼ 0 で,圧力だけが変化する場所においてもあまり効果を持たない.

それではスピーカー内部で粒子速度が高い場所とはどこか.スピーカー内部に吸音材を配置する理由の1つは定在波の除去である.スピーカー内の定在波は,ちょうどピンと張った弦のように,両端(壁面)では粒子速度の節になっている(逆に音圧は両端で腹となる).1次(もっとも低い周波数)の定在波は波長の半分の長さになるので,例えば幅が25cm のエンクロージャの場合,約700Hzに共振することになる.この場合,粒子速度の腹はスピーカーのど真ん中なので,スピーカーの真ん中あたりに吸音材を置くことで最も高い吸収効果が得られる.2次,3次の定在波はそれぞれ配置が異なるので,それらも吸収しようとすると,結果,ふんわりと吸音材をスピーカー内部に満たすのが良いことになる.

バスレフ型のスピーカーでは内部の圧力変動でバスレフポート内の空気を共振させるので,ある程度,低音の吸収を抑えたいということがある.幸い,バスレフポートの共振周波数は,スピーカー内部の定在波よりもずっと低い(通常 100Hz 以下であり,これに対応する定在波を持つスピーカーは2m近い大きさになる)ので調整ができる.そもそも吸音材は100Hz以下ではあまり効果がないので問題がないとも言える.バスレフ型スピーカーの物理モデルでは,エンクロージャ内部の気圧が均等に変化するものとされるが,実際にはバスレフポートの空気がかなりの速度で出入りし,その速度が全体に行き渡るような動きをするので,バスレフポートの共振を強めたい場合には(Q値を大きく撮りたい場合には),バスレフポートの口の近く(ポート直径の数倍程度)には吸音材は配置しないほうが良いということになる.しかし5cm ぐらいの吸音材の厚みではそもそも100Hzに対する吸音効果はほとんどないので,やたらと薄くする必要はない.もしバスレフポートのすぐ近くに吸音材を配置すると,それはaperiodic 型スピーカに近い動作になる(ポートの長さを度外視すれば).

小型の密閉形スピーカでは空気ばねが強力になることでQ値が上昇し,スピーカーのコーン自身が共振して不要な残響感が発生することがある.この場合は,密度は低くて良いので(密度を上げすぎると,せっかくのエンクロージャ内の空気容積が減ってしまう),ふんわりと全体に吸音材を入れると良いようだ.しかしやはり低域での効果は限定的になると思われる.

吸音材の働きについて(参考資料)