なぜ小型スピーカのバスレフはだめなのか

ポイント

バスレフ型スピーカに必要なエンクロージャの容積について

バスレフ型ではバスレフポートからの音圧を利用することで低音を増強するが,これがうまく働くには適切なエンクロージャ容積が必要となる.シミュレータ等で調整しながら周波数特性がフラットになるところを探してもよいが,以下の数式も便利である.

$$V_b = 20 V_{as} Q_{ts}^{3.3}$$ これを Alpair 7 generation 3 という10cm口径のスピーカ($V_{as} = 4.58L, Q_{ts} = 0.54$)に適用すると,必要な容積は 12L と出るが,10cm のユニットを1つだけ取り付けるにはけっこう大きめである.しかし,容積を小さくするとやはりなかなか,良好なチューニングは難しい.

上のグラフは,Windows 用のスピーカ設計ソフトウェア WinISD にこのユニットのパラメータを設定し,自動計算されたエンクロージャ容量(13Lとなった)と,その半分の 6.5L で設計した例である(緑線がバスレフ型で,青線は比較用の密閉型 6.5L の例).13L では50Hz あたりまで平坦になるが,6.5L ではそれができない(ちなみに他のページでは,より詳しく調べるために回路シミュレータ Qucs でシミュレートしているが,当然 Qucs でも同じパラメータを設定すると こちらのようになり,ほぼ一致していることが分かる).

上のグラフは 6.5L のまま,ポートの長さを変えて共振周波数を変えた場合である.エンクロージャの共振周波数を 40Hz にすると中間帯が下がりすぎ,かといって 60Hz ではそれより上が膨らんでしまう.13L のときのような,肩の部分まで平坦な特性は作れない.バランスが良いのは 50Hz の設定の場合である.しかしそれでも低域の増強効果はあり,密閉型よりはいいように思えるが,本当にそうだろうか.

イコライジングの効果

このグラフではイコライザにより,6.5L の密閉型に補正をかけた場合を示している.43Hz を中心に 7dB の増強を行うと,40Hz よりも上ではバスレフ型とほぼ同じになり,またそれよりも低域では密閉型のほうが低音が強い.つまり小型のバスレフを作らなくても,密閉型をイコライジングすればいいのである.しかし,イコライジングを行うと音質が低下したり,スピーカの動きが大きくなり,音量が上げられないのではないか?と思われるかもしれない.

このグラフはイコライジングの有無によるコーンの動きの変化を示している.そもそも密閉型はバスレフ型に比べ,低域でコーンの動きが制約されやすいため,アンプが同じ電圧を出力してもコーンの動きが小さい.そのため,イコライジングにより補正しても,バスレフ型の場合とほとんど変わらないコーンの動きでほぼ同じ音圧が得られる(繰り返すが,エンクロージャが小さい場合).また,低域では密閉型のほうが音圧が高いにもかかわらず,コーンの動きは小さい.バスレフ型ではバスレフポートからの音圧がコーンからの音圧を打ち消してしまうため,低域ではコーンが動いても音圧が低下してしまうが,密閉型ではそのような問題がないためであり,もう少し低域をブーストすることができる.

これは群遅延と呼ばれ,音圧の上昇が入力信号に対してどの程度遅れるのかを表している.この程度の遅延が問題になるかどうかには議論があるが(CCIRの基準の1/3程度だが,この基準は50年ほど前のもので,シビアな音質を評価するときにも十分なのかどうかについては判然としない),はっきりとはわからなくても,音の粒立ち感,クリア感に影響することがある.密閉型では,そのままではもちろん,フィルタを入れた場合でも群遅延はバスレフよりも小さな値となっている.

総合的に言って,小さなスピーカを作るには密閉型のほうが有利である.そもそも共鳴だってアナログ的なイコライジングであり,時間を使って振動のエネルギーを溜め込む仕組みで,必要悪に過ぎない.こちらで紹介した基準により同じユニットで Q = 0.707 にするためには,密閉型では6.5L しか必要としない.もっとも,密閉型もこれよりも容量を小さくするとQ値が上がりすぎるし,大きくしても周波数特性の肩がなだらかになるだけでメリットがない.より自由にエンクロージャ容積を決めるには,こちらで紹介する音響抵抗型のスピーカにするしかない.

もっとも共鳴にも,共振周波数付近ではコーンの移動量が非常に小さくなるというメリットはある.どうしても限られた大きさで大音量の低音を出す必要があれば(室は低下するが)使わざるを得ない場合もある.