3Dプリンタによる写真アクセサリ製作
2016年2月初版
写真・カメラ用アクセサリに限らず一般的に、一定の需要があるものは製品化され容易に入手できますが、過去の製品のためのアクセサリや特殊性の高いアクセサリは存在しなかったり、あったとしても非常に数が少なく入手困難であったりします。それに対し近年3Dプリンタ技術が発達し、1個から安価に成形品を制作することが出来るようになりました。そこで、ここでは写真アクセサリの製作に使用できる3Dプリンタの紹介とともに、いくつかの製作例も紹介します。自宅に3Dプリンタを導入しない場合でも、それぞれのアクセサリは DMM クリエイターズマーケットに出品していますので、必要に応じてリンクから発注できます。
3Dプリンタの導入
3Dプリンタには様々な方式があります。最もよく普及しているのはFDM方式と呼ばれるもので、ワイヤ状の樹脂を熱して細いノズルから出し、積み重ねていく方法です。しかしこの方法のプリンタはカメラアクセサリを作るには精度が不足するものが多いと思われます。一方、より高精度な光造形方式の3Dプリンタが最近、急速に安価になり、FDM方式と遜色ない価格(3万円前後)で購入できるようになってきました。最大造形サイズはやや限られるものの精度は非常に高く、カメラに用いられているネジの細かさでも設定を突き詰めれば造形可能です。

私も従来、プライベートの部品製作にはDMM等の出力サービスを使ってきましたが、現在はこの
ANYCUBIC Photonを使用しています。従来の光造形方式の3Dプリンタは、レーザ光のミラー走査やDLPプロジェクタによって紫外線を照射する方式でしたが、この機種では光硬化樹脂を入れたバットのすぐ下に液晶パネルが置かれています。上から降りてきた板とバットの底の間の樹脂が紫外線により硬化され、1層を硬化するつど上の板が3cmほど上がります(そのときにバットの底から硬化した樹脂が剥がれますが、これが剥がれやすいようにバットの底が柔軟で薄いフィルムになっているのがミソです)。これを繰り返して造形しますので可動部分が少なく、また1層の硬化に必要な時間は5〜10秒程度ですので、造形のピッチを細かくしても、かなり短時間(造形高さ1cmあたり30分〜1時間)で出力できます。
導入時の注意事項としては、音はほとんどしませんが溶剤臭がかなり強いので、換気の良い部屋を確保することが必要です。UVレジンの他に洗浄用のイソプロピルアルコールや、バット底に用いられるFEPフィルムなどの消耗品も最初から一緒に揃えておくことをおすすめします。このタイプの3Dプリンタは、造形サイズに対する接地面積の小ささにも優れています。

造形精度は驚くべきものです。左は造形パラメータ決定用のテストサンプルの出力結果ですが、細い針状のものや0.5mm程度の柱・穴、溝などは十分造形できます。右は、レンズシャッターにレンズを取り付ける部分の細目ねじ(ピッチ0.5mm)ですが、ネジ山の形が非常によく再現されています。とはいえ、造形パラメータ(1層の厚みや、1層ごとの露光時間)によって若干、設計値よりも厚みが増したりすることがありますので、パラメータの合わせ込みと、誤差をデータ設計時に勘案することも必要です(ピッタリの寸法で作ると入らないこともあります)。

上の例は、
コダック・オートグラフィックのシャッターに
コートポケットテナックスのダゴールレンズを装着するためのアダプターの設計・制作例です。ダゴールはレンズが薄型であるため、レンズを絞り・シャッターにじゅうぶん近づけるためには、レンズがシャッターに沈み込むような形状のアダプターが必要です。そのアダプターの肉厚が非常に薄く、前後ともに厚みが0.4~0.5mmになってしまう部分がありました。しかしこの3Dプリンタを使用することで製作が可能となりました(実際にはマージンがほとんどないため、出力後、各部を削るなどの手作業は行いました)。

こちらは、ニコンFマウントのレンズとソニーEマウントのボディの間に装着する、マウントアダプター型のオートコリメータ(後日紹介予定)に使用するマスク板(レチクル)の制作例です。幅0.2mmほどの隙間の造形に成功しました。しかし、黒色樹脂の透過率が高く、このままではレチクルとしては使用できません。塗装等が必要になります。同様に、カメラのボディのような遮光性が必要とされる部分でも後から何らかの遮光処理(内部に遮光フィルムを貼付するなど)が必要になると思われます。
3Dプリンタで思い通りのものを作るには、CADでの設計技術(私は主にCGソフトの Blender を使用しています)に加え、3Dプリンタの特性に合わせた設計の合わせ込みが必要となります。しかし、自宅にプリンタを置ければ修正のサイクルも早くでき、結果的に、難しいものも製作可能になると思われます。
中判カメラ用ピント調整治具

中判カメラを整備・調整するときに、ピントを調整するための治具です。以下のような目的に用います。
- レンズを無限遠に設定した時に、ちゃんと無限遠にピントがあっているかどうか(フランジバック調整)。
- スプリングカメラなどの距離計連動式カメラの距離計が、正しくレンズと連動しているか。
- 一眼レフカメラのスクリーン位置やミラー位置が正しい位置にセットされているか。
カメラには、
フィルム位置を決める方式として直圧式とトンネル式の2種類がありますが、多くのカメラにおいて、そのどちらにでも自動的に対応するようにできています。

この治具を使用するには、ニコンの FE/FM2, FM3A 等のためのフォーカシングスクリーンを用意する必要があります。汚れたり傷が入ったもので十分です。これを、本来の向きとは表裏を逆にして(マット面が下になるようにして)この治具に載せます。治具には、これらのスクリーンについた突起が収まるくぼみも付いているので、このくぼみが合うようにスクリーンを載せると間違えることはありません。

上の写真は、エンサイン オートレンジ 16-20 の調整をしているところです。載せたスクリーンが浮かないように、マスキングテープのような糊が残りにくいテープで止めてください(きちんとスクリーンがはいると、周囲とスクリーンの手前面がツライチになるようになっています)。また治具全体も落ちないようにカメラに止めると楽に調整ができます。

治具の設計は上の図のようになっています。スクリーンのマット面は赤の点線の位置にセットされます。直圧式のカメラでは、画面の周囲の枠が B の位置に接することになります。また、トンネル式(フィルムが巻きぐせによって圧板に押し当てられることでフィルム位置が決まる方式)では、A の部分が圧板の位置を決めます。フィルムの位置は、圧板の位置から裏紙とフィルムの厚みだけ前進した位置になるため、フィルムの厚み D (富士フイルムの ACROS での実測値0.20mm)だけ A と B の位置に段差を設けてあります。面 A と B は、それぞれ以下の図の A, B に対応しています。

トンネル式と直圧式の違いの詳細については、
こちらを参考にしてください。
幅 X は、画面(撮影範囲)がかなり小さめのカメラでも問題ないよう 54mm にしてあります。Y はフィルムの幅に一致しており、Z は多くのカメラを採寸して検討した結果 68mm になっています。また短辺は40mm(画面内に入る部分は38mm)です。実際に調整したいカメラで使えるかどうかは、お手持ちのカメラの寸法を測って確かめるか、治具を加工してください。
なお、圧板に段差が付けられているカメラ(例:コダックメダリスト)など一部のカメラではピント位置がずれるため、なんらかの補正が必要となります。

こちらから注文できます。
ブロニカに引き伸ばしレンズ、0番レンズシャッターを取り付けるアダプタ

フォーカルプレーンシャッター内蔵型のブロニカ(ブロニカ D, S, S2, EC, EC-TL など)に一般的な引き伸ばしレンズ(ライカスクリューマウント:L39で取り付けるタイプ)、または0番のレンズシャッターに取り付けられた大判用などのレンズを装着して撮影するためのマウントアダプターです。ブロニカにはシフトやティルトが出来る高機能なベローズが用意されていますが、純正レンズはイメージサークルがさほど大きくないため移動量が限られてしまいます。その点、大判用レンズはもちろん、引き伸ばしレンズもより大きなイメージサークルに対応したレンズが多く揃っているため、より自由度の高い絵作りが可能になります。
装着例では、ローデンシュトックのアポマクロシロナー 120mm F5.6 (コパル0番シャッター付き)をベローズを介してS2に装着しています。ニッコールAMEDやアポマクロシロナーのような接写用アポレンズは画質も高く、またボディ側をバルブにしてレンズシャッター側を用いることでブレを抑えることも出来ますので、高精度な接写には好適だと思います。なお無限遠にピントを合わせたい場合は概ね120mm以上のレンズでなければならないようです。

2点目の装着例では、EBCフジノンEX 105mm F5.6 の引き伸ばしレンズを、やはりベローズ付きのS2につけています。この例では無限遠は出ません。105mmクラスの引き伸ばしレンズは69判をカバーしますので、やはり純正レンズを用いる場合に比べてアオリの自由度は増します。ただしマウントによるケラレには注意する必要があります。

3Dプリントサービスは出力物の体積が大きいほど料金が上がりますが、これぐらい小さいパーツですと基本料金の割合がほとんどになってしまうようなので、この商品では2つのリングをセットにして、細い線で2つの部品を接続してあります(DMM のプリントサービスでは、1つの商品が2つ以上のパーツで構成されていると出力できませんので、つなげてあります)。ニッパーやカッターナイフ等で簡単に切り離すことができ、また裏面で繋いであるので取り付け時の外観や精度には影響しません。

いずれも黒色ナイロンで出力すると十二分な強度があります。0番シャッターを取り付けるアダプターは、レンズ取付部の厚みが約 2mm あります。

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NIKKOR-O 2.1cm F4 用リアキャップ

ミラーアップしてニコンF、F2やニコマートに取り付ける超広角レンズ、NIKKOR-O 21mm F4 はレンズ後部が突出していて普通のリアキャップが装着できません。しかし純正のリアキャップは単体で見つけることが非常に難しいため、3Dプリンタで制作してみました。また、せっかくだからと、このレンズだけの独特の仕様である、レンズの空回りを防ぐ内爪もつけました。この内爪はマウント内でレンズ後部の向きが変わることを防ぐためのもので、キャップには必ずしも必要ありませんが、フォーカスリングの動きを確かめるようなことが可能になります。

キャップですので、どの色で出力しても構いませんが、白や淡色では汚れが目立ちます。また、ミラーアップが必要な(レンズ後部が突出した)他のレンズでも付くものがあるかもしれませんが未確認です。

また、純正のキャップと同様に専用のファインダを取り付けられるキャップも制作しました。さらに、ファインダ全体をほぼ覆う保護カバーも装着できるようになっています。

純正品とは異なり、簡単なロックがついていて脱落防止としています。取り付け・取り外しも純正品より弱い力で可能となっています。ファインダ部分のカバーも抜き差しできるようになっています。

シューなしのものは
こちら、
シュー付きのものは
こちらから注文できます。
シュー付きのものは、カバーと本体が細い線でつながっていますので、ニッパー等で切り離してご利用下さい。
ブロニカにFマウントレンズを取り付けるアダプタ(接写用)

フォーカルプレーンシャッター内蔵型のブロニカ(ブロニカ D, S, S2, EC, EC-TL など)にFマウントのレンズを装着し、接写を行うためのマウントアダプタです。ブロニカには接写専用のレンズがありませんが、このアダプターを使うとマイクロニッコールなどで等倍付近の撮影が簡単に出来ます。上の写真はそれぞれ、Ai Micro-Nikkor 55mm F2.8S, Ai Nikkor 50mm F1.8S を装着したときの例です。

使用するには、この3Dプリンタ出力に加えて以下の部品が必要になります。別途ご用意ください。
- ニコン BR-3 リング
- M1.7x6mm なべ小ねじ 4本
- M1.7 ナット 4個
BR-3 は 52mmの雌ネジとFマウントを変換するリングで、現行品ですので新品が容易に入手できます。例えば yodobashi.com であれば、税込み・送料込みで 1580円で購入できます。ネジは、ホームセンターでいろいろな種類のネジが詰め合わせになったものが一袋 200円前後で売っています。ものによっては、必要な径・長さのネジが2本しか入っていないものもあるのでご注意ください。

この3Dプリンタ出力に BR-3 から外したマウント座金を乗せ、M1.7 のネジとナットで固定します。側面からナットを差し込む穴が明けてあります。カメラに取り付ける側は、ブロニカのマウント内に刻まれた 57mm P1 のネジに適合するように作ってあります。ナイロン製で十二分な強度があります。

こちらから注文できます。
Lマウント 13mm 延長リング

エルニッコール50mmF2.8N(プラスティック鏡筒の引き伸ばし用レンズ)をミラーレス一眼カメラに取り付けて撮影するために用いるリングです。ライカLマウントの雄ねじと雌ねじを備えたリングで、光学的バックの延長量は約13mmです。フルサイズデジタル一眼カメラ(ソニーα7等)に取り付けた場合でも、このアダプターによるケラレは生じません。もともとナイロン粉体をレーザで焼結したものですので内面反射は大きくありませんが、内部に溝を切って反射を防止する対策がなされています。
使用例の写真では、ソニーNEX-5Rにヘリコイド付きマウントアダプターを装着し、さらにMLリングによりMマウントからLマウントに変換したものにこのリングを取り付けています。このように、お手持ちのカメラとLマウントの間のアダプターは別途ご用意下さい。引き伸ばしレンズ単体にはヘリコイド(ピント調整機構)が備わっていないため、このようにヘリコイド付きのマウントアダプターを利用することが前提となります。引き伸ばしレンズの個体差に対応するため、必要な厚みよりも少し(1mm弱)薄めに作られています。これにより若干オーバーインフになる(ヘリコイド付きマウントアダプターを少し繰り出したところで無限遠にピントが合う)点はご了承下さい。

「ナイロン ブラック」を素材に指定して出力したものが、手持ちのLマウントや当該エルニッコールレンズに正常に取り付けができることを確認しています。僅かに柔軟性がある素材ですので、無理に斜めにねじ込んでいっても装着できてしまうことがあります。マウントのネジに対して、きちんとまっすぐにねじ込まれていくか注意しながら装着して下さい。正しく装着されたときの強度は十二分にあります。
このエルニッコールは引き伸ばし作業時に絞り値を照明するための窓がマウント側に設けられていますが、アダプターの内径を細めにしてこれを大部分遮るようにしてあります。クリアランスを確保するために100%遮光されるわけではありませんが、実用上はまったく問題ありません。どうしても気になる方は、レンズ後部の採光窓にパーマセル等を貼って遮光して下さい。

この写真(京都 蛸薬師堂)は、ソニーα7にこのレンズを装着し、F2.8開放で撮影した時の撮影例です。開放から非常にまとまった画質で撮影できます。

こちらから注文できます。