3Dプリンタによるブロニカレンズ〜Fマウントカメラアダプタ製作

ブロニカ(フォーカルプレーンシャッタータイプ)のレンズの大半はニコン製のニッコールレンズで,これをニコンの35mm一眼レフカメラに付けてみたいという話はよく聞くが,しかし意外にそのアダプタは見かけない.その理由として,ブロニカのレンズにはヘリコイドが備わらないのでアダプター側にヘリコイドが必要なこと.また,レンズ単体では,レンズの絞りリングの位置に関わらずレンズの絞りが開ききったままになることから,絞りを動かすための何らかの工夫が必要なことが考えられる.私は出所不明の手作り風のアダプタ(ブロニカの小バヨネットからニコンFマウントに変換するもの)を持っていて,それにはヘリコイドも絞り操作メカも備わっているが,自作ヘリコイドということもあってか動作がスムーズでなく,またなんといっても取り付けられないレンズが割と多い.そこで,3Dプリンタでアダプタを制作してみることにした.

ブロニカ大バヨネットへのアダプタ

まずは,ブロニカ第バヨネットへ変換するアダプタを作ることにした.

バヨネットマウントの設計は精度面でかなり難しい.マウントの各部寸法をノギスで測って図面化し,また,角度が必要なものはマウントをスキャナにおいてスキャンした画像を利用したりする.だが,どのみち最終的に樹脂製となるのであまり嵌め合いがきついと割れてカメラの内部に落ちたりする危険がある.ブロニカのマウントでは金具の一部を変形させてバネ状の働きをもたせた部分などもあり,樹脂では同じものの実現は難しいので,今回は安全を見てルーズな感じに作った.後で述べるようにこれはベローズで用いるので,ゆるいことは実は問題にならない.

手持ちの3Dプリンタは最大造形サイズが限られており,奥行方向が65mmしかない.このアダプタは直径が80mmなので,寝かした状態では造形できない.立てて配置すれば造形できるが,出力してみたところ歪んだりしてうまくいかなかったので(サポートの付け方も良くなかったのだと思われる),2つに分割して組み立てることにした.組み合わせ部分はアリ溝構造にし,差し込み部分をさらに接着剤で固定した.

完成後,全体を少し磨いてからつや消し黒のスプレーで塗装した.最後にFマウントの金具をネジ止めすれば完成である.レンズのロック機構も一応作ったが,結果的には造形精度のこともあってあまりうまく機能しなかった.Fマウント側はマウント金具の入手が容易なので,ガラクタ箱にあった,一部が加工された接写リングのジャンクを利用した.

このマウントアダプタは樹脂製ということもあって,ブロニカの重いレンズを付けてそのまま撮影するには不安感がある.また,物理的にはブロニカS2等に付属のヘリコイドが取り付けられるが,その場合では前述のようにレンズが開放絞りで固定されてしまうので,ベローズを用いることにした.この写真では先端から順に,Nikkor-D.C 40mm F4,ブロニカEC-TL用ベローズ,制作したマウントアダプタ,Fマウント〜ソニーEマウントアダプタ(アオリができるタイプだが今回は使わない),そしてソニーα7である.カメラを直接,ベローズの台座に取り付けるとレンズに対して高さが低すぎるのと,カメラのボディがベローズのフォーカシングつまみに干渉するので,クイックリリースアダプタを置くことで1cm少々の嵩上げをしている.今回のアダプタは本来のフランジバックよりも少し短めに作っているので,上の写真の状態でほぼ無限遠が出ているが,さらにもう少し薄めに作ったほうがアオリの自由度は高かったと思われる.α7では液晶がチルトするので,ライブビューで快適に撮影することができる.

もちろんニコンの一眼レフカメラにも取り付けることができる(機種によってはプリズム部の張り出しが干渉するものがあるかもしれないが).ニコン同士の組み合わせが少し嬉しい.このカメラでもライブビューが可能なので,アオリを生かしたマクロ撮影などが楽にこなせる.

ブロニカ小バヨネットへのアダプタ

上記の大バヨネットへのアダプタは寸法が大きく一体として出力するのが難しいことに加え,やはりバヨネットマウントの強度がプラスティックでは厳しい.そこで今度は小バヨネットへのアダプタを作ることにした.

今回はバヨネットマウントをそのまま造形するのではなく,ブロニカレンズ側には接写リングを用いる.接写リングはボディ側がφ57mm P=1mm のネジになっているので,これに適合する雌ねじを切ったリングを作れば良い.ボディ側も同様に今回はニコンFマウント用のリバースリング,BR-2Aを使うことにする.BR-2Aは,Fマウントから(Fマウント用ニッコールレンズのフィルタ枠に最もよく使われている)φ52mm P=0.75mm のネジに変換するリングなので,アダプターにはやはりこのネジに適合する雌ねじを切るだけで良い.

BR-2Aは数十年前に購入して持っているはずだが,いざ使おうと思って探してみると出てこない.埒が明かないので新しく買うことにした.といっても,送料込みで1,408円.しかも昔と変わらぬ超高品質で,極めて丁寧な仕上げである.継ぎ目のない,金属塊からの削り出しで,しかも日本製.これを製作し,在庫管理し流通させることを考えるとまったく驚きでしかないが,ともあれ,ありがたい話だ.3Dプリンタ出力用の形状は円筒から2通りのネジをくり抜くだけなので設計は超簡単.オーバーハングがないので造形も容易である.

α7に装着したところ.この構成ではヘリコイドがどこにもないので,Fマウントのカメラに付けた場合はピント合わせが出来ない.α7のソニーEマウントからニコンFマウントへ変換するリングにはヘリコイド付きのものがあるので,それを使用することになる.この手のヘリコイドはなかなかストロークが大きいので便利.またブロニカの接写リングには絞りを閉じる機構が備わっている上,ネジマウントで起こりがちなレンズの向きのズレを調整する機能もあるので,絞り指標を真上に持ってくることもできる.今回制作したアダプタは前後ともネジで止まっているので強度はかなり高く,屋外での撮影などに使用することができると思う.