パラコードで作る「切れない」ストラップ
とかくカメラストラップは悩ましい。まず大前提として、切れる心配がない安全性が第一だ。また、金具(アジャスター等)がゴロゴロとかさばったり、カメラに傷をつけないことも重視したい。自分としては、以下のような条件を満たすストラップが欲しいということになるが、すべてを満たす商品はなかなかないのが現実だ。
- 切れない 当然のようだが、実はこれが十分に満たされていない商品もある。例えば Peak Design のアンカー式ストラップが近年人気だが、あの細いワイヤーは良好な状態での耐荷重性はあるものの、摩耗による劣化を定期的に確認する必要があり(実際、摩耗が視覚的に分かるように素材色が組み合わせられていることからも明らかだ)、個人的には使いたくないタイプの商品ということになる。
- 抜けない カメラに付属しているものを含め、多くのストラップにはアジャスター(「日」の字の形をした金具)が使われており、徐々に抜けてくる可能性がゼロではない。安全性のためにはストラップの末端をアジャスターから十分な長さだけ引き出しておく必要があり、それが見た目や使い心地に悪影響を及ぼすことがある。
- かさばらない バックルやアジャスターがあると、それが手や体に触れて不快感のもとになる。特に私の場合、ストラップを手の甲に巻き付けて使うことも多く、そういうときに金具があると不快に感じる。「抜けない」の条件と合わせると、調整機能がなく、自分にとって最初からピッタリ快適な長さのものが良い。ARTISAN&ARTISTなどが調整機能のないストラップを販売しており使い勝手が良いが、長さが選べないことや、二重カンを吊る部分が革製で耐久性(安全性)に不安があるのが玉に瑕で、値段も高い。
- 傷がつかない バックルやアジャスター等が金属製のものは、カメラに触れたときに傷が入る可能性が高い。いくら気をつけていても使用中だけでなくカバンの中などでカメラに傷をつけることがあり、悲しい思いをしたことがある人は少なくないのではないだろうか。一方、これらにプラスチックを用いたものではカメラに傷が入る可能性は少ないが、耐久性が完全ではない。
そこで今回、強度にまず不安のないパラコード(パラシュートコード)でカメラストラップを作ってみた。もちろん、コードそのものが頑丈でも、コードの止め方や結び方が悪いと十分な安全性は発揮できない。ネット上ではストラップの作り方が多数見つかるが、1箇所の結び目がほどけるとカメラが落ちかねないものも散見される。そこでコードの取り回しを工夫し、原理的にカメラが落ちる心配がない構造を考えた。作り方も簡単なので、ぜひ試してみて欲しい。なにより、とても廉価に作ることができるのが嬉しい。
切れないストラップの原理
パラコードでストラップを作るためには、普通、複数のコードを編んで太くする。1本だけでは肩や首に食い込んで不快だからだ。この編みには、コード同士をつなぐ効果もある。そこで、これを最大限利用して、容易にほどけないストラップを作る。
ストラップの切断を防ぐためには、パラコードを繋いだりせず、継ぎ目のない1本のコードでストラップ全体を作るのが望ましい。また、ストラップは両側(左右)が対称のほうが見た目が良く、使い勝手が良い。となると全体としては、コードが奇数本(上の図では3本)、行き来することになる。言い換えると、上の図のようにコードが左右に1往復半(もしくは2往復半、3往復半・・)すると、コードの端が右と左に分かれる。そして、その間を何らかの方法で編む。そうするとこのストラップ全体は、その編んだ部分がすべて解けない限り切れないということになる。上の図では簡単のため編んだ回数が少ないが、実際には冒頭の写真のようにストラップの大部分が編んだ部分になる。そうすると、この長い編み目がすべて解けない限りカメラが落ちることはなく、実用上それが急に起こることはありえない。
もちろんコードの両端は何らかの方法で結びつけ、容易にほどけないようにする。この結び目はストラップがほどけ始めないようにするために重要であるが、万一ほどけ始めたとしても、それが即、カメラの落下につながるわけではないのがミソである。
コードを何往復させるかは、ストラップの太さを決定づける。太めのストラップを作るには5本編みなども使われるが、両端(上の図では見やすさのため複数の色を用い、右端と左端で異なる色のコードを繋いでいるように見えるが、実際には継ぎ目のない1本のコードである)を切り離さずにループを保ったまま編めるかどうかは、編み方による。私自身は、あまりかさばらない細身のストラップを好むので、今回は単純に三つ編みで作ってみた。三つ編みであれば、3本のうち2本がつながっている状態でも難なく編むことができる(この条件の三つ編みは、稲穂結びとも呼ばれる)。
作り方
ここでは写真に収めるため、実際のストラップよりも短いものを作る例を示す。必要な材料は以下のとおり。
- パラコード 今回は7芯、4mmのものを使用した(耐荷重250kg)。小さなカメラ向けにしなやかなものが良ければ、3mmも良いと思われる。
- 二重カン(二重リング) 12mm程度のものが良い。こちらを使用した。
また工具として、ハサミとライターが必要である。
まず、必要な長さのコードを引き出す。三つ編みの部分は少し短くなるので、最終的に作りたい長さに対し1割程度、長くする(短縮率は、編み目の詰まり方により変わる。固く編んだほうが見た目が良いが、ストラップのしなやかさは低下する)。編み終わるまでコードを切る必要はないので、長さが気に入らなければ、切り離す前に全て解いてやり直せば良い。
上の写真のようにコード端でないほうのループを下側に回し、そこから編み始める。
三つ編みを作る。編み方はよく知られているので、ここでは省略する。ループ側がねじれないよう、コードを回さずに、重ねるようにして編んでいくと綺麗に編める。編み始めを釘などに引っ掛けて編むと楽に編める。
端が近づき、並行にしたまま残す部分まで来たら編むのをやめる。端のコードがループをくぐり、横へ引き出された状態で止める。
コードを結ぶ。いろいろな結び方を検討したが、結果、このように単純な丸結びが良好であった。末端のコードを他の2本の回りにぐるりと回してから、その輪をくぐらせて結ぶ。
三つ編みを止めるには、止め結びと呼ぶ方法もよく用いられる。3本のコードを束ねて1本とみなし、丸ごと丸結びにする方法である。しかしこの止め結びは結び目が大きくなり邪魔になるので、ここでは1本だけを回して結ぶ方法を推奨する。
コードを引いて結び目を引き締める。ループを束ねるように引き締められ、コード端も平行に揃うのでじゃまになりにくい。
上の1回の結びでも十分だが、念のためもう一度コードをぐるりと巻いて丸結びにすると安心感が高い。コードの端は適宜切断し、切断面をライターで炙ってほつれないようにする。炙ったところにできる硬い部分が大きければ、結び目をくぐってほどける可能性はかなり低くなる。
この段階でストラップの長さ(両端のループ間の距離)を確かめ、OKならストラップ部分を残りのコードから切り離す。そして、切り離した側から少し三つ編みを解き、既に作った(結んだ)ループ側と同じ長さの並行部分を作る。その後は同じように結び目を作れば完成である。
作成例
実際に、必要な長さのストラップを作成した。首から胸の前にカメラを下げるには、80cm前後が使いやすい。一方、たすき掛けにすることがあるなら、1m前後に伸ばすほうが良いだろう。
カメラを吊り下げるためには、二重カン(二重リング)を用いる。写真のように、12mm程度の二重カンが使いやすい。ストラップを編む前に、ループ部分に二重カンを事前に通しておく方法もあるが、上の写真のように、ストラップを作ってから二重カンをつけることもできる(ループ部分の2本が広がらずまとまりやすいというメリットもある)。この状態にしてから、二重カンを少し開いて、カメラのアイレットに取り付ける。
カメラに取り付けた様子。
傷防止のために、二重カンにパラコードを何周か巻き付けるような取り付け方も可能だが、カメラを持ったときにじゃまになることもあるので、好みに合わせて工夫して欲しい。