Hollow Clock (空洞時計)
ポイント- 視界を遮ることなく高い視認性を実現
- 非常に少ない部品点数・制作容易
- 時刻合わせがかんたんで,デザインの変更も容易
コンセプト
これまで,いくつかの変わった時計を作ってきた.それらは機械式のデジタル時計や時差計算のできる世界時計などで,つまりメカ的な複雑さに面白さを見出していた.普通のアナログ時計だけれども凝ったデザインの時計も3Dプリンタでよく制作されているが,そういうものはデザイン力のなさもあって避けてきた.しかし今回はとうとう普通のアナログ時計を制作した・・と言いたいところだが,今回のもちょっと変わっている.中心部に軸やメカがなく,文字盤内のほとんどが透明な(というよりはなにもない)時計である.
調べてみると,こういう時計が過去にないわけではなく,こちらやこちらのような凝ったメカの時計が過去に3Dプリンタで制作されている.しかしこれらはかなり複雑で,また,ホビー用の3Dプリンタでは制作できない金属部品なども多用されていて,おいそれと誰でも作れるものではない.Thingiverse などを見ていると,複雑なものはあまりなく,むしろ3Dプリンタだけで出力できる制作容易なものに人気があるようなので,部品点数を減らし,また入手容易な部品だけを用いて,できるだけ多くの人に作ってもらえるものにした.また,上記の例では分針と時針が離れていることや,針が短いことから時間が読み取りづらく,実用性に乏しいと思ったので,できるだけ実用性も高くなるように考えた.
時計の実用性というと,実は視認性の他にもう1つ重要なのが時計のあわせやすさである.3Dプリンタで制作された機械式の時計などでは,どうやって時刻合わせをするのだろうと思えるものが多い.単に1分ずつ順送りするのでは手間がかかりすぎてしまうし,時刻合わせのときに分解しなくてはならないのも困る.これまでに作ってきた自作の時計機構では,なにかしら時刻合わせの仕組みを持っていて,時刻の桁や10分の桁を別途進めることができるようになっていた.今回の時計は意外な方法でさっと時刻合わせができるようになっている.上の動画にあるように,時針と分針の円盤を外して置き直すだけである.また同じように,文字盤(インデックス)も簡単に差し替えられるようにした.本体と固定してしまうとかさばるし,多くの人に作ってもらうには部品の大きさは1辺20cmまでに収めたほうが良いからである(多くのホビー向け3Dプリンタでは20cm四方のものまでが出力できる).
仕組み
時計を動かすのにはいつもの小型サーボモーターを用いた.このサーボは小型かつ安価(1個200円程度)だし,世界中で入手容易である.それの制御にもいつもの micro:bit を用いていたが,arduino で動かせないのかという意見をもらい試してみた.micro:bit(1個約2,000円)に比べて arduino nano の互換機は1個500円以下で入手でき,また,micro:bit とは違ってUSB経由の5Vが取り出せるのでサーボの制御にはかえって都合が良かった.
問題は時針と分針を進める機構である.サーボモーターを2個使いたくないので,ラチェット機構(一方向にのみ回転できる機構)の爪に角度差を設け,途中まで回転させると分針だけが進み,もっと回すと分針と時針の両方が進むようにした.時針も分針も60歯のラチェット機構なので,時針は12分に1回だけ進めることになる.
ラチェット機構では普通,バネの力で爪を引っ掛ける(逆回転のときに引っ込める)が,部品に柔軟性をもたせようとすると大きくなったり壊れやすくなったりするし,時針や分針側を強固に押さえつける仕組みも必要になる.そこで発想の転換で,時針や分針が上に逃げることを許容し,これによって固定爪(台座部分に固定)と,可動爪(サーボによって回転)の双方を単純化した.これによって部品点数が劇的に少なくなり,また,壊れにくくなると同時に,いつでも時針や分針の円盤が取り出せるようになった.これらの円盤を押さえる仕組みも不要なので、2つの円盤の距離を近づけることもできるし,円盤は平板的なので3Dプリンタでの出力も容易である.この,逃げと自重を利用したアイディアが今回の時計の肝だと言える.ただし動作時にはサーボのギア音と,文字盤が揺れるときのガタゴトした音がするので寝室などには向かない.
結果的に部品点数は,本質的には時針と分針の円盤,台座,可動爪(赤いパーツ)の4つだけになり,金属製の軸やバネも不要である.円盤と台座の間にガタがいくらかあるので,台座は後ろ向きに2度傾けられている.
デザイン
ラチェットギアの部分は正面から見えないようにして,細い枠だけに見えるようにした.分針はともかく,時針(短針)は外周のどこかに繋がないとならないので,太さを変えて接続した.もっとも旧来の時計のデザインにこだわることもないので,短針は外周に寄せてしまってもいいし,下の写真のように◯などの変わったデザインにしてもよい.数字が並んだ文字盤も作ってみたが,視認性から言えばオーソドックスなバーインデックスが良いように思える.機構的に針の位置決め精度が高く,時針や分針はきっちりとインデックスに重なるので,なかなか気持ちがいい.前述のように円盤を押さえる機構が不要なので,台座部分が円周内に突出せず,すっきりしたデザインになった.
文字盤部分は単純なので,第三者が自由にデザインできるキットも用意し,また,ちょっと変わったデザインもいくつか作ってみた.変わったものとしては,下の動画にあるようにモアレ現象を用いて見た目がどんどん変わる文字盤も作ってみた.
3Dデータやプログラムはこちらからダウンロードできる.アップロードから数日中には早速制作した人が現れ,狙い通りになったようだ.