Hybrid Clock
ポイント- 1個のモーターだけで、デジタル表示とアナログ表示の両方を制御
- 接続設定も簡単になった、時刻のWiFi同期
- マルチマテリアル3Dプリンタを活用したすっきりデザイン
コンセプト
これまで多数の時計を作ってきた。時計というと、基本的にはアナログ(針式)か、デジタル(数値表示)かになる。今回はそれらを1台に統合した時計を作った。単に2つの時計をくっつけるだけなら簡単だが、この時計の特徴は、全体をたった1個のモーターだけで制御している点にある。しかもWiFiから時刻を得るので、時刻合わせも自動だ。最近、普及が進んできたマルチマテリアル3Dプリンタ(Bambu Lab P1S Combo)を活かし、見た目の質感も向上させた。
設計
スタートは、壁掛け式の WiFi 同期デジタル時計を作ろうとしたことだった。これまでも WiFi 同期の時計をいくつも作ってきたが、いつも課題となるのは、電源投入から時刻合わせ完了までに要する時間である。普通の時計のように分針と時針が歯車でつながった時計では、目的の時間に達するまで針をぐるぐると何周も回す必要があり時間がかかる。デジタル時計でも、こちらの時計のように1分の桁にモーターを取り付け、10分、1時間の桁へと繰り上がりを行う機構を用いた場合、やはり全体の時刻合わせには非現実的な時間がかかってしまう。
そこで自身が好んで採用してきた機構が、各桁の間に大きな遊びを設ける方法である。上の動画はいずれもその原理を用いた時計で、デジタル時計では1分の桁、アナログ時計では秒針にモーターが取り付けられている。これらを遊びの範囲内で動かす分には、上の桁に影響することなく自由な値の表示ができる。遊びを超えて動かすと、上の桁が押されて動くので、それを用いて上位の桁の値を決める。最も頻繁に動く必要がある最下位の桁にモーターが取り付けられている点がミソで、ほとんどの場合はわずかな動きで時刻の更新が終わる。上位桁の数値(または分針、時針)が動かされる場合は何周もぐるぐると回ることになり、桁数が増えるとそれだけ時間の更新に時間が掛かるが、その頻度は低いので問題ない、というわけである。ただ、この仕組みを用いるには円筒が数珠つなぎになっている必要があり、アナログ時計では壁掛け可能な薄型にできるが、デジタルでは構造を変える必要があった。

そこで今回、円筒を横軸周りに回す配置から、円盤を前後軸周りに回す方法に変更した。上の図のように10分と1分の円盤を同軸構造にした上で、時間の桁の円盤を左へずらした。1分の桁(赤)の内側に爪があり、それが10分の桁(青)の円盤裏側の爪を引っ掛けて回す。その動きは後ろの歯車を経由して黄色の円盤を回す。この黄色の円盤の内側にも爪があり、それが時間の桁(緑)の円盤を引っ掛ける、という仕組みである。各円盤の大きさも変え、それぞれの桁で必要な数字の種類(時間=12個,10分=6個、1分=10個)にあわせて半径も変えた。
ただ、このようにすると時間の円盤がかなり大きくなる。デザインで工夫しようとしたが、どうしてもその中心付近の空きがうまく埋まらず、間延びしたデザインになる。そこで、この部分にアナログ時計を設けることにした。時針は回転する時間の円盤に直接描く。また、黄色の歯車は10分の桁と連動しているので、この軸を前まで伸ばせば分針を取り付けられる。ただし、10分の桁には6ポジションしかなく、10分に1回しか動かないので、分針もとびとびの、10分刻みの動きになってしまう。そのため、アナログ部分ではおおよその時間しか分からず、いわば飾りであり、主体はデジタル時計である。各桁の文字の並び(右回りか、左回りか)は自由に設計できるので、時針や分針が時計回りになるように文字を配置した。

基本的なコンセプトが固まれば、あとは設計を詰めるだけである。ある桁の回転が他の桁の円盤を引きずって回してしまわないように、軸受の構造は工夫した。特に、1分と10分の桁同士は互いに触れることがない構造にした。分針と時間の円盤は、細い軸から太い軸への伝達となるため引きずりが発生しにくい。また時間の円盤には、起動時の初期化のためのラチェットフックが取り付けられるため、これを用いて12個の表示ポジションにクリックストップを設けて回りにくくした。軸のブレなどに影響されにくいよう、ギアの厚みも多めに取ったが、結果的に時計の厚みは5cm程度と、問題ない範囲に収まった。
作成
個人向けの3Dプリンタは従来、人手での調整やチューニングが必要だったが、最近のプリンタは徹底的に自動化が図られており、通常の(紙に印刷する)プリンタと同じような感覚で使用できるようになってきた。マルチマテリアル3Dプリントも容易になり、見た目の改善と、組み立ての省力化が可能である。そこで今回、マルチマテリアル前提の設計とした。文字を貼り付ける必要がないので円盤が薄型化でき、時間と分の桁の段差を小さく抑えることが出来るし、文字が引っかかって時計が狂うこともない。

WiFi 設定も改善した。以前は "SmartConfig" というESP32の仕組みを用いていたが、アプリをインストールする必要があることや、WiFi の周波数(スマートフォンが 5GHz で接続されていると設定できない)などの問題があった。そこで今回、WiFiManagerを用いるように変更した。時計そのものがWiFiのアクセスポイントになり、ウェブサーバとしても動く。ここにスマホで接続すると設定が可能になる。ソースコードもかなり単純になり、良いことづくめであった。
例によって3DデータとプログラムはThingiverseやInstractables, Printablesで公開している。