モアレ時計

ポイント

コンセプト

いろいろな時計を作ってきたが、アナログ・デジタルそれぞれに難しさがある。デジタル式は各桁の間の連携(繰り上がり)に難しさがあるし、アナログは時針と分針の間の減速ギアが少し厄介になる。もちろん歯車で簡単に解決できるのではあるが、3Dプリンタは精度が低いのでギアをあまり小さくすることはできず、メカをコンパクトに纏めるのが難しい。時針と分針の軸を重ねて同軸にする部分も、3Dプリンタの精度や強度ではあまり細くできない。それなら、「なんとか、たった1個の回転部品で、時針と分針の両方を表示できないか?」という命題に挑戦したのがこの時計である。

そんなこと無理だろう。時針と分針、回転速度が12倍違うのだから。と思われるのも無理はない。しかし不可能ではないのである。この時計ではモアレ現象を用いて、実際の円盤の回転(時針と同じ速度、12時間で1回転)に対して光学的に表示される分針が12倍速で回転するようになっている。より詳しく言うと、固定された板には一周に11周期の穴があいており、一方、回転する円盤には一周が12周期の穴があいている。よって円盤が1/12回転するうちに、穴と穴が一致するポイントがぐるっと一周するので、12倍速で回転する像が見えるというわけである。ただし単に11本ないし12本の放射状の長穴を開ける方法だとなめらかに回転する像が見せられないので、細かな穴をずらしながら並べている(ただしある特定の直径だけに着目すると、穴は11個ないし12個なのは変わらない)。また時針は直接、回転する円盤に大きな穴を開けて表示している。

原理的に、針の像が暗い(穴が小さい)ので、背面から照らして針が見えるようにした。穴を大きくすると明るくなる代わりに針の幅が太くなってしまうのである(穴の大きさと見かけの針の太さが直接対応する)。厚みが厚いと斜めから見たときに見えなくなるという問題もあるので円盤を薄くした上で、裏側は透明の素材で作成した。裏側にいろいろと構造物があると光が遮られて針が消えるので、できるだけモーターや支えの柱は離して置いている。制御は簡単で、モーターを12時間で一周するようにプログラムするだけである。本当はもっと細かな穴で作りたいのだが、家庭用3Dプリンタの精度ではこの程度がやっとかと思う。

例によって3DデータとプログラムはThingiverseで公開している。