Non-Split Flap Digital Clock

ポイント

コンセプト

アナログ時計はいまも針が物理的に回転するものが主流であるのに対し、デジタル時計は現在、そのほとんどすべてがLEDや液晶を用いたものになっており、かろうじて「パタパタ時計」と呼ばれるタイプだけが残っている。これは国内ではフリップクロックなどとも呼ばれるが、正式には flip でなく flap の語が使われ、上下に2分割されていることからSplit-flap display、日本語では反転フラップ式案内表示機と呼ばれるものである。

この方式は巻取り式の表示板よりも素早く表示を切り替えることができるため、駅や空港などでの案内表示のほか、時計にも多く用いられた。上の写真はそのような時計の内部である。しかしこの方式には、あまりに普及したために「当たり前」になってしまい、顧みられることがなくなってしまった欠点がいくつかある。

一方、古くにはまったく異なる仕組みの機械式デジタル時計もあった。その代表例の1つが以下に示すような、Numechron と呼ばれるタイプの時計である。

Numechron は単に、文字を刻んだ円筒または多角形が回転することで時刻を表示する。構造が単純で、薄板などの加工技術も必要ないが、この時計には致命的な弱点があった。それは、筐体の大きさに対する表示部分の小ささである。時間表示では少なくとも12種類の表示が必要であり、大きな12角形を収めるためには筐体がどうしても大きくなってしまうのだ。おそらく、この欠点が反転フラップ式に駆逐された最大の理由だと思われる。そして絶滅してしまったのだが、ここに一工夫加えることにより復活を果たせないか。そう思って新しい時計を製作した。

設計

上の動画は、この時計を後ろ側から見た時の様子である。時間と1分の桁にはそれぞれ12, 10個の表示が必要であるが、これを反転フラップ式のように表と裏に記して裏返せば半分の数で済むことになる。裏返す仕組みには遊星歯車やカムを用いる方法も考えたが、それらの歯車やカムがどうしてもフラップを支える軸よりも大きな直径となるために、表示面から前へ飛び出してしまうのが気に入らなかった。そこで最終的に、フラップそのものを枠にひっかけて裏返す方法を考えた。これだと、軸受がわずかに前へ飛び出すだけでほとんど邪魔にならない(反転フラップ式でも同じような飛び出しが必ず発生する)。

毎回ちゃんと確実に引っかかって反転してくれるのかと思うが、それは大丈夫。フラップが反転部分に来たとき、後ろ側の端(上図A)が内側へ押されることで、前側の端(上図B)が外へ飛び出し、確実に動作する。各フラップには長さがあるために、フラップの回転軸の軌跡よりも両端が外へ飛び出しているので、回転軸に干渉することなく、また可動部品や柔軟部品を用いることなく、少し内側へ押し込むことができるのだ。またこの構造のため、それぞれの円筒を逆回転させるとやはりフラップも逆向きに反転し、常に正しい表示が保たれることになる(今度はB点でフラップが内側へ押され、A点で先端が外側へ飛び出す)。これにより、時刻合わせ時には時間と10分の桁を手で自由な方向に回転させることができる(1分の桁はマイコン側から簡単に進めることができる)。

今回の設計では、モーター(上図緑)を10分の桁の回転部分の内部に収めた。また、1分から10分の桁への繰り上がり機構(上図ピンク)も同じスペースに入っている。1分の桁が2周するごとに繰り上がりが発生するので、単純なカウンター歯車機構では実現できず、1:2の減速輪列が必要になる。それを外側に置くとかなり邪魔になる上、動力を外へ取り出すための歯車も外部に現れ、さらにその歯車の厚みの分だけ、1分と10分の桁の間の距離も離れてしまう(ここをいかに狭くするかが、この手の時計の設計のキモでもある)。今回の時計ではこれらがすべて10分の桁の内部に収まっているので、1分と10分の桁の間には、モーターや歯車を支える厚さ4mmのフレームが入っているだけになっている(そこにモーターへの配線も隠される)。

1分の桁には、逆回転防止機構(上図水色)が取り付けられている。これは文字の高さがぴったりになるよう位置合わせするためのもので、1分の桁を逆回転させるとここがひっかかり、モーターの力が負けることで位置合わせされる。これまでの時計では、ステッピングモーターのステップ数だけで文字の位置を制御していたが、接触面の凹凸などによるひっかかりがあると文字がずれてしまうことがあり、また、電源投入時にも細かな位置調整を行う必要があった。今回の設計では、マイコンがリセットされたときにまず逆回転が行われ、自動的に位置合わせが行われる。また、毎分、時間を進めるたびに少し行き過ぎて戻る動きをすることで、摩擦等でモーターが少々脱調しても(意図したステップ数が進まずにずれてしまっても)、時間表示がずれることがないようになっている。10分、1時間の桁は6枚の表示板があるために60°で1ステップであるのに対し、1分の桁は表示板が5枚で1ステップが72°と大きく、12°の余裕がある。その余裕が歯車の遊びになっていて、そのぶんだけ回転量が行き過ぎても上の桁への影響がないため、このような動作が可能となっている。

組み立て

今回の時計でも、すべての部品は家庭用の3Dプリンタでサポートなしでプリントできる。また、上下のカバーを除き、機能的に必要な部品は180x180mmの小型3Dプリンタでも出力できる大きさに収めている。文字版に色を付けるのがこの手の時計の難題で、反転フラップ式の時計でも文字を手書きしたりシールを張ったりと、3Dプリンタだけではできない作業が発生するものが多い。それに対してこの設計では、3Dプリンタでの出力中に材料(フィラメント)を交換することで、表と裏にそれぞれ文字を表示できるようにした。フラップの厚みがある程度厚くても大丈夫な機構だからこそ可能になったとも言える。

見た目に派手さがなく、当たり前っぽい外観になってしまったが、文字に光が当たりやすいこともあり、かなり遠くからでも時間が読める実用性の高い時計になった。複雑そうな割に組み立ても簡単で、それは上の動画で確認してほしい。実用性重視の、ほぼ全体が覆われたタイプに加え、極力細身のフレームで内部のしくみや動きがよく分かるスケルトンバージョンも作成した(左右両端のフレーム以外の部品は共通である)。例によって3DデータとプログラムはThingiverseInstractablesで公開している。