永久カレンダー付きの時計

ポイント

コンセプト

腕時計の世界では複雑時計(コンプリケーション)は憧れの的である。その複雑時計の代表的な機構の1つが永久カレンダー(パーペチュアルカレンダー)だ。普通の機械式時計の日付表示は31日で一周するので、小の月の終わりには日付を合わせ直さなければならない。それに対して永久カレンダーはうるう年の2月を含め4種類の月の長さ(28, 29, 30, 31日)を正しく処理でき、2099年まで日付を修正する必要がない。しかし永久カレンダーの備わった腕時計は数百万円以上してとても普通の人に買える代物ではないし、掛け時計となるとそもそも永久カレンダーがついたものはほとんど見かけない。そこで今回、3Dプリンタで作ってしまおうと考えた。

永久カレンダーの仕組みは多数考案されているが、代表的なものはプログラムホイールと呼ばれる特殊な歯車(上図右下)に4年分の各月の長さを刻む方式である。これにより、日付を進めるメインレバー(緑色の大きな部品)の往復運動の大きさを変える。しかし月末以外は1日しか日付を進めてはいけないため、今回の設計ではガイドピース(赤色の部品)にメインレバーの爪を滑らせることで、メインレバーの往復運動の大きさに関わらず日付が1日だけ進むようにしてある。ただし、日付に対応するラチェットギア(左下の青い部品)のうち1つの歯だけがガイドピースよりも長く出っ張っており、月末にはメインレバーの爪がこれに引っかかることで最大で4日分を一気に進めることができる。何日にこの長い爪を拾うのかが月によって変わるように、プログラムホイールでメインレバーの動きを変えているわけである。このとき同時にプログラムホイールが少しだけ回転され、翌月に進む。

永久カレンダー機構そのものはそう複雑ではないと思ったが、時計として仕上げるにはいくつかの約束事があり、それを守るように設計するのは少しやっかいである。というのは、針が逆回転(反時計回り)すると非常にわかりづらくなるし、月や日付を読み取りやすくするためにはそれぞれの針の位置(回転軸)が対称となるようバランスよく配置しなくてはならない。今回の時計では、日付・月の表示に加えて1日で一周する24時間針と曜日の表示を加えたため、これら4つの針とそれらのサブダイヤルが対称に並ぶように設計した。また中央付近には分針と時針の間の減速ギアも入る。3Dプリンタではあまり細かな歯車は作れないので、歯の細かさ(モジュール)が小さくなりすぎないように大きく設計する必要もある。

この手の時計はメカが見えるほうが面白いので、サブダイヤルや軸を支えるフレームは最小限にして、できるだけ内部が見えるようにした。それぞれの歯車も肉抜きすることで見た目の印象が軽くなる。さらに、前面にネジの頭が見えないようにも配慮した。時計全体の大きさは250x250mmだが、これでは家庭向けの多くの3Dプリンターでは出力できないため、機構部品を180x180mmの範囲に収めて、Prusa MINI など小さめのプリンタでも出力できるようにした。その上、サポートを使わなくても出力できるようにすべての部品の形状を工夫している。

組み立て

部品点数は約30個でさほど多くないが、前部と後部ユニットをそれぞれ作ってから結合する組み立て方が少し独特なので、組み立て動画も作成した。仕組みを解説するための動画も作成したが、もともと Blender ですべて設計しているので、今回は影などが美しく再現される方法で少し時間をかけてレンダリングした。部品の色を変えたほうが見た目に面白いが、あまりに多くの色を使うと煩雑になるので、今回はすべての歯車をオレンジで、また特徴的なメインアームを緑で出力し、目立たせたくない地板やフレームなどは黒にした。

振り子やテンプなどの機械式の調速機構にも人気があるが、3Dプリンタで長時間動く機械式時計を作るのは強度や摩擦の点で難しい。当初は普通のアナログ時計用のクォーツムーブメントで動かすことも考えたが、ムーブメント内部の時刻合わせ機構(秒針と分針の間に滑りをもたせてある)が滑ってしまってトルクが足りなかったため、動力源にステッピングモーターを使用してある。電源を取る必要はあるがゼンマイを巻いたり重りをぶら下げたりする必要はなく、時間の正確さも優れているので実用性のある時計にもなったと思う。

例によって3DデータとプログラムはThingiverse, Printablesinstructablesで公開している。