2次曲面 aperiodic スピーカー
ポイント
- パソコン画面の近くに置いて小音量で使う,小型のスピーカを作った.
- 残響が起こりにくい曲面形状のエンクロージャを3Dプリンタで出力した.
- 小さいスピーカは密閉型やバスレフ型では残響音が大きくなるので,Aperiodic 方式(音響抵抗方式)で作成した.
形状について
3Dプリンタでエンクロージャを作る場合,箱型にする必要はない.むしろ剛性や箱鳴り防止の観点では曲面で構成されていたほうが有利であり,また,造形時間も短くなる.箱型のエンクロージャでは対向した面の間で定在波が発生するが,曲面の場合,気体の粒子変位方向が一定せずに打ち消し合い,共振が起こりにくい.
しかし,ただ意味のない曲面にするのはどうかと思うし,B&W のNautilus のような渦巻き型も目新しくない(そもそも円錐管が共鳴しないということもない).そこで2次曲面で構成することにした.回転楕円体は2つの焦点を持ち,一方の焦点から出た音波は他方の焦点に集中するという性質を持つ.まあ,この大きさでこの現象を利用するにはかなりの高周波でなければ意味がないので,言ってみればただの面白さである.しかし回転楕円体の焦点にスピーカーを置く方法は既に特許が成立しているので,回避の意味も込めて,放物面(パラボラ)を組み合わせた.パラボラは平行線を1点(焦点)に集める性質を持つので,平行移動するコーンを持つスピーカーにはむしろ好都合である.しかし単一の放物面だと容積が小さすぎる(大きくすると細長くなる)ので,放物面と回転楕円体の焦点の位置を一致させることにした.これだと,スピーカーから出た音波はいったん共通の焦点に集まり,次に回転楕円体の他方の焦点へ集まる.この方法だと2つの図形を互いに回転させることができ,設置自由度が高まる.
PCのディスプレイの下からスピーカー部分が覗くように設置したいので,ユニットを下端に取り付けられるようにし,また,少し上向きに角度をつけた.奥行きを小さくしたいので卵型部分は縦にした.前述のように波長からすると,焦点を利用した構造が効果を持つのはかなりの高音領域に限られる.しかしその領域については,ちょうど 焦点に後述の aperiodic vent の綿が位置するので,1面に大きな吸音材を配置したのと同じ効果が得られるはずである.
制作
aperiodic 型エンクロージャに特有の空気抵抗部分(綿を詰める)を調整可能とするために,一方の焦点を中心とした空間を設け,その部分は外部からねじで脱着できるようにした(緑色部分).内側のグリル(青色部分)も取り外せる.また,回転楕円体と放物面の共通の焦点(原点)には,そのあたりに吸音材を配置できる(引っ掛けられる)ように針状の突起を設け,また,補強と造形の安定性を兼ねて補強板を配置した.なお,スタンド部分(赤色で表示)は単なる円錐ではなく回転双曲面である.つまり,3種類の2次曲面(回転楕円体,放物面,回転双曲線)が一緒になった形状となっている.スピーカーユニットとして,後ろ部分が大きい Alpair 7 generation 3 が装着できるように設計したが,まずは 0.644 倍し,2.5インチの Timphany 社 Pearless PLS-P830985 を装着することにした.
3Dプリンタではサポートなしで造形したが,オーバーハング部分の造形が少し乱れたり,一部に僅かな隙間が見られたので(実際の計測結果でも密閉度が低いことがわかった),パテ埋めして塗装することにした.といっても完璧に造形段差をなくそうとしたわけではなく,あくまで目止め程度である.しかし塗装後はあきらかに密閉度が上昇し,aperiodic vent を塞いで密閉形にしたときのQ値の上昇が確認できた.
特性の計測はこちらを参照されたい.小型のエンクロージャながら残響感のない,澄んだ音が出るスピーカーとなった.なお,綿としてはぬいぐるみ用の綿(ダイソー)を2g詰めるのがちょうど良かった.