レトログラード式の時計

ポイント

コンセプト

普通に分針や時針がぐるぐる回る時計に皆慣れているから、それが見やすいのに決まっている。しかしおかしなもので、高級腕時計の分野には変わった表示形式のものがあり、その代表的なものがこの時計で採用している「レトログラード」と「ジャンピングアワー」だ。レトログラード (retrograde) は「逆行」という意味で、針が端まで来ると元の位置まで戻り、また同じ向きに動き出す機構である。特に合理性はないので知識として知っているぐらいであったが、動画のコメント欄に「レトログラードはつくらないのか」とコメントされたので作ってみた。

もう1つ、ジャンピングアワー (jumping hour) と呼ばれる機構も搭載した。普通の時計では、時間の経過に伴って時針はじわじわ回転していく。それに対して時針が瞬時に動く時計をジャンピングアワーといい、針の代わりに時の数字を記した円盤が回転するものも含まれる。しかしジャンピングアワー式の時計は少し厄介だ。毎正時に分針が真上を通過したときちょうどに時が変わらないと読み間違いを起こす。例えば少し早めに時が変わってしまうと、2時58分と3時00分の間に短時間だけ、3時59分が見えることになる。もしもピッタリに調整されているとしても、針が真上の右か左かを注意深く見なくてはいけない。この点で、ジャンピングアワーはレトログラードと相性が良い。針が戻る瞬間に時刻表示が変われば読み間違いが起こらないためである。

レトログラードやジャンピングアワーが面白がられるのは、凝ったメカが必要になるからである。その点、今回の時計はラジコン等に用いられるサーボを電子制御で回しており、プログラムでいかようにでもなるので、なんら面白くない・・という感想もあるのではないかと思う。しかし実は、これはこれで必然的な仕組みなのだ。というのは、ラジコン用サーボの回転角は限られており、時計のようにぐるぐると何周も回せないからである。その点、レトログラードなら実現可能。となると時刻表示もラチェット機構で片付けるのが簡単だ。・・ということで、電子工作でよく使われるサーボを使って時計を作るならこれが簡単。という提案にもなっている。

部品点数はわずか7個。文字や指標を表示するのに、プリント中に材料を交換する方式とした。メカがシンプルなので文字盤も大胆に肉抜きした結果、見た目が面白くなっただけでなく、材料の消費量やプリント時間も少なく・短くなった。ラチェット機構周りが部品の柔軟性に頼った設計になっているが、比較的無理のない構造にもなったと思う。例によって3DデータとプログラムはThingiverseinstructablesで公開している。