回転式デジタル時計(改良版)

ポイント

コンセプト

1個のモータを往復回転させて1つずつ桁を揃えていく回転式のデジタル時計は,以前に数字表示タイプ7セグメントタイプを作成して公開していたが、いくつか改良の必要性を感じていた。一つはときどき、円筒同士の接触により隣の円筒が(回ってほしくないときに)回ってしまうことがあったことや、それを防ぐための仕組み(軸を多角形にして動きにくくする仕組み)が立てる音が大きかったことなどである。他にも WiFi 設定をスマホから行う方法を教えてもらったことや、外装付きも作りたいなと思っていたこともあり、そのうち改良に着手しようと思っていた。

そんなところにふと思いついたのが、原点合わせの方法である。以前の設計では、反射型フォトセンサを用いて右端の円筒の位置を計測する方法になっていた。しかしこの反射型フォトセンサ RPR-220 は他の部品(マイコンやステッピングモーター)に比べて一般的でないのに加え、抵抗器などの配線が少し面倒なことや、反射率によって閾値の調整が必要なことなど、製作する上で「間口を狭める」要因になっていた。個人的にはどちらの時計もデザイン性や実用性が高く、また7セグタイプも時間がかるものの動きが面白いので、もっとたくさんの人が作ってくれればと思っていたが、なかなかそれが増えないのはこのフォトセンサのせいだと考えていた。

そこで今回の時計で採用したのが、非常に原始的だが、「突き当て」で原点出しをする方法である。そもそもこの時計は原点を出してから一定回数回転させることですべての桁を0に(または8888に)合わせるようになっている。このとき、最上位桁(一番左の円筒)の回転を規制すれば、そこでモータの力が負けて原点で停止することになる。なぜ最初にこんな簡単な方法を思いつかなかったのかと思う。利用しているモータ(28BYJ-48)はトルクがかなり弱いので、突き当てで強制的に回転を止めても壊れることはないし、ステッピングモータなので停止時にコイルに大電流が流れて焼けてしまう心配もない(実測でも電流の変化が僅かであることを確認している)。この方法には、最も左の円筒の設計を他の円筒と共通に出来るというメリットもあった。

設計

数字表示タイプについてはすべてを完全に再設計した。以前のものは両持ち型で、円筒の外にモータや回路がついていたのを、その後の7セグメントタイプと同様に軸の中にすべてを収めることで部品点数の削減と簡略化を行った。台座部分は回路を搭載する際に邪魔になるので、前の7セグタイプでは別部品だったが、今回は二股にすることで一体化した。上の図で、左端の台座部分に溝があるのが原点出しのための突き当て機構で、数字が書かれた円筒は左の3個が共通部品となっている。部品はたった4種類、8個だけで、組み立てにプラスチック溶接も不要になった。

静音化のために軸は完全な円筒形とした。この場合、隣の円筒に引きずられてしまう現象が発生すると考えられるので、今回はスペーサ(赤い部品)を挟んで一定の距離を保つようにした。スペーサの厚みだけ円筒を離すと隙間が目立つので、スペーサの当たる部分の円筒を少しだけ凹ませることであまり隙間が目立たないようにしている。スペーサは軸に引っかかる形状になっていて、周囲の円筒が回転してもスペーサは回転しない。

軸を円筒形にしたことでケース入りのタイプも作ることが出来た(多角形型でも作れないことはないが、動作時に円筒が少し上下するので、そのぶんだけ隙間を広げる必要がある)。最初は左上の丸い形のものを設計した。外装ができるだけコンパクトな「ミニマルな」デザインにしたのだが、幅に対して高さが割と高いことや、内部の円筒を想起させる形状ということがあって、数字が相対的に小さく見えてしまうという欠点があった。そこで少し角張ったタイプを再設計した。表示窓の周囲に額縁型の平面を設けた上で、下部は筐体の台座に見えるように少しへこませ、頂部は浅い斜めの面にすることで、厚みを薄く見せるとともに、内部に大きな円筒が入っているという印象を弱め、相対的に数字が大きく感じられるようになった。

従来どおりのむき出しのタイプ(見た目的には気に入っているが、どこを読めばよいのかわかりにくいという声がある)と、7セグメントタイプも作成した。7セグメントタイプも同じようにスペーサを用いる方式で再設計したが、円筒の個数が多い(10個ないし12個)ことからスペーサに接触する部分が増え、摩擦の増大によりうまく動かないことがあった。そこで7セグタイプでは静音化は諦め、従来の設計ほぼそのままで、光センサなしに突き当てで原点出しをする部分と、足の部分の一体化だけを行った。7セグタイプは幅がかなり大きいので、従来の24時間表示型(円筒数:12個)に加えて12時間表示型(円筒数:10個)を設計に加えた。このタイプは数字が円筒に対して大きく、他の数字が見えることもないので、ケースに入れなくても視認性の面での問題はない。

以前は WiFi の設定をソースコードに直接書き込んでいた。安定動作にはよいのだが、人に時計をプレゼントするときに困ってしまう。そこで今回はスマートフォンから WiFi 設定ができるようにした。これは前のタイプの時計について Thingiverse のコメント欄で教えてもらった方法で、ESP32マイコンのソフトウェアライブラリにそもそも搭載されている機能である。時計単体でも現在状態がわかるようにするために、WiFi に接続しようとしているときと、それに失敗してスマホからの設定を待っているときとにそれぞれ動きを付けた。

例によって3DデータとプログラムはThingiverseで公開している。