風袋引き機能のついたはかり

ポイント

コンセプト

3Dプリンタではかりを作ってみた。以前にも1gから無限大まで測れる非線形レタースケールや、載せたものの重さの比率が直読できる上皿天秤なども作り、これらのノウハウを使えば作れることはわかっていた。また、やはり使用頻度が高いのはキッチンなどで使う上皿はかりなので、ただ作ればいいのかも知れないが、作るからには、なにか新しさのある機能がないと面白くない。そう思っていたところ、「風袋引き(容器や薬包紙の重さを差し引ける機能)」があると面白そうだと思い至り、今回作ってみることにした。

設計

基本的な原理は以前の非線形レタースケールと同じで、支点の真下にぶら下げられた重りが、測定対象の重さによって上がっていくことにより釣り合う仕組みとなっている。これにより、測定対象が軽いときには細かく、重くなるほど荒く測れるようになる。ただし今回は無限大の重さに対応する90度までの可動域は取らず、一定の範囲に制限することとした。

2つの支点を持ち、平行四辺形が歪むような動きをすることで、対象を乗せる位置に関わらず重さを正しく測ることができる仕組みをロバーバル機構と呼び、当然このはかりでもそのようなメカニズムとなっている。このはかりにはパチンコ玉を詰めたおもりが2系統(3個)使われている。1つは零点(はかりに何も載せていないときに指針が0を指す)を調整するための「バランスウェイト」で、これを支点に近づけたり離したりすることで調整する。これがそのまま、風袋引きのためにも用いられる。

ほかのおもりは、対象の重さを測るための「メインウェイト」である。これがないと天秤の重心は支点に一致するので、可動部分の自重はないのと同じことになる。それに対してメインウェイトをつけることで、対象の重さに対して天秤の回転角度が決まり、重さを測ることができる。これも支点からの距離を変えることで較正に用いる。

これら2つのおもりを統合して1つにすることも可能だが、そうすると調整が難しくなる。敢えてバランスウェイトとメインウェイトを分けることで、容器や薬包紙の重さをバランスウエイトで補正しても、メインウェイトによる指示値の較正には影響せず、依然として正確に重さを測れることになる。ここで重要なのは、バランスウェイトが正確に支点の真横についていることであり、内部のパチンコ玉が動いて偏ることがないような設計にしている。

造形する上で注意したのは、各パーツの造形時の姿勢と形状の関係である。各パーツをもっと単純な箱型の形状にしても、造形時に中身が抜けるのであまり重さは増えないが、見た目の重量感・重厚感が増し、格好良くならない。なので各パーツは適宜、肉抜きをするが、その肉抜き形状が適切でないと出力が不安定になる。具体的には、寝かせて造形するパーツ(縦長の可動部品や、下側のアーム)は穴を開けるような肉抜きになっているが、上のアームや土台部分は板状のものが立てられた姿勢で造形されるため、穴を開けず、厚みを薄くするような肉抜きになっている。またその薄い部分と辺縁部の分厚い部分の間も、90度の立ち上がりでなく斜めにすることで造形の安定性を確保している。前の目盛り板部分は横倒しで出力することを前提とした形状となっている。

作成

3Dプリンタは複雑な形状の造形が可能であるため、それを活かすためにできるだけ部品を統合して少ない部品点数となるように配慮している。特に、筐体部分は全体を一体構造とすることで剛性も稼げ、重い対象を載せても歪みにくくなっている。各部品の可動域が大きいため、互いに干渉せず、意図した範囲でスムーズで動くような形状としており、また、支点のスパンを長く取って、対象が中央に載せられなくても傾きにくいようにもなっている。

目盛りは今回、プリンタで印刷して貼り付けることとした。非線形目盛りのため、作図ソフトで作成するのは簡単ではない。そこで、目盛りの線をPostScriptのコマンドで描画するシートをExcelで作成し、それ(シートをコピーしてテキストエディタに貼り付けたもの)をGhostScriptでPDFに変換することで原稿を作成した。きっちりmm単位で作図できるので、覚えておいて損のない技法である。

はかりを自作するときにもっとも用意するのが難しいのが、耐久性のあるバネであるが、このはかりは実質的には天秤であり、重りの釣り合いで動作する。物を乗せると針が下がるという動作も直感的でいいように思っている。例によって3DデータとプログラムはThingiverseInstractablesで公開している。