寂・NY

 

 

 

 


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ここニューヨーク・マッハッタン島は現代社会の中心である.経済や文化といった,日頃報道等で目にする情報からもそれは明らかだ.だけど,この街をしばらく歩いてみると,それがもっと直接的に,肌の感覚として理解できる.なぜならこの街そのものが,世界・人類の縮図であるということを原動力に,日々動いているからだ.そしてそれは,華やかで豊かな生活と,生きる限り避けられない重さや悲しさが一体であり,分けることなどできないという事実を否応無しに突きつけるのだ.

確かに米国は豊かな国だ.名実共に資本主義社会の盟主であり,それを掌握している.だがこのマンハッタンに限らずどこでも,国や地域というものが直接何かの活動をしているわけではない.そこにいるのは人であり,その人々の行動が集まって巨視的な意味での力となる.しかしだとすると,国や地域には経済力や実行力だけでなく,心や愛情,喜怒哀楽があってもおかしくないと思う.が残念なことに,国家は喜怒哀楽について語られることはあっても,愛を持ちうる存在とは一般には認知されていないようだ.

そういう目で再びマンハッタンで生活している人々を見てみると,当然だが彼らも同じ人間である.スポーツやゲームを楽しみ,隣人や家族を愛し,働き,食べている.だが一方でやや自分勝手で環境意識が低い.また,内に優しく外に厳しい.敵は存在するという前提で考え行動しているように感じられてならない.

総じて,地域全体では「お金持ちでがっちりした体格だが,いつかやられるのではないかと心配のあまりガキ大将風を吹かせてしまう」という米国そのままの体質になるのだろう.だが先に書いたように,彼らも人間なのだ.しかも思ったより心配性なのかもしれない.・・実際,心配事は多い.滞在中も地下鉄で,デマによるテロ騒ぎがあったし,地元のTV局 "NY1" では連日,テロ対策や安全確保に関する話題が取り上げられていた.マンハッタンはいまや不安から逃れられない街になってしまったのだ.

そういう人々のどこか不安な気持ちを感じながら,カメラを持って街を歩く.観光地ではキャンバスやカメラを前に皆が微笑み,今のこの幸せな瞬間を記録しようとしている.なぜかそれが寂しいことのように感じられた.人はなぜ幸せをカメラに収めようとするのだろうか,というようなことをカメラで撮影しながら考えたNY滞在だった.

コンタックスTは非常に小さく,そのくせ抜けの良いレンズとしっかりした7枚羽根の絞り,必要十分な距離計を備えたすばらしいカメラだ.同様の形や大きさ,機能のカメラとしては他にローライ35,ミノックス35,オリンパスXAなどがあるが,これらと比べてみるとやはりコンタックスTの秀逸さが改めて分かる.外装のデザインも,さすがポルシェデザインが手がけただけの事はあってすばらしい.ただ詳細に見て行くと,絞り開放では隅が割と甘いのと,シャッター速度の表示が簡単すぎる点が気になる.特に後者は,せめて高輝度側(露出オーバー)と低輝度側(手ぶれ限界)を色違いのLEDかブザーによって明確に知らせてくれれば良かったのだが.また比較的華奢なカメラであるうえ,修理に難があるというのも欠点に挙げられるだろう.やや操作しづらいということもあるので,小さい割には慎重かつまじめに使うと本領を発揮するカメラだ.

CONTAX T, Carl Zeiss Sonnar 38mm F2.8 T*
Fujifilm Neopan ACROS
シュテックラー改処方(中川式)

(upload : Aug., 2006.)