歳月

 

 

 

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約80年前のカメラを入手した.少し整備し,テストを兼ねて何かを撮ってみようと思ったとき,自然と足が向いたのが,先日100周年を迎えた最寄りの駅だった.

このカメラ(スーパーセミイコンタ531)はレンズから調べると1936年頃の製造.ツァイス・イコン社が軌道に乗り,コンタックスやコンタフレックス(二眼レフ)など挑戦的なカメラを次々と開発販売していた,1つの全盛期のカメラである.それと同時に,この1936年はヒトラーが全権を掌握してから3年後,民族浄化や独裁政権の樹立など諸外国から警戒されつつある時期で,汚名を返上し国威発揚するためにベルリン・オリンピックが賑々しく開催された年である.このカメラも,街中にならんだ巨大なハーケンクロイツ旗のもと作られていたのかもしれない.

80年という歳月が長いのか,短いのか.歴史の流れの中で考えるとうんと長いような気もするが,戦後,経済が軌道に乗り工業製品の品質が飛躍的に向上した1950年代のカメラにも既に還暦を迎えたものが多くなり,それらの現役時代と変わらない姿を見ているとそんなに昔ではないような感じもする.被写体になった古い枕木も,いつからここにあるのか.思えば自分も43歳になりつつあり,この駅周辺に遊びに来るようになった,物心ついた頃からあったような気もするし,そうでもないような気もする.駅舎は建て替えられ,電化も進み,小さい頃から好きだった,大きな音を立てて動くポイント設備も更新され,古いレールを溶接して作った柵も撤去されてしまった.でもこうやって網膜に映る風景の中に,40年前と変わらないものがあちこちにあるような気もする.そんなことを考えさせられた,80年前のカメラであった.

撮影に不自由がない最小の中判カメラを求めてスーパーセミイコンタに辿り着いた.機能が減ることによって操作の手順が増えることは問題ない.オートフォーカスや自動露出はおろか,セルフコッキングや自動巻き止めも,まあ,あったら助かるが,なくてもその分軽ければいい.しかし,高性能なレンズを味わうためには,絞りを開いて使った時にもピントを精確に合わせることが出来る連動距離計が欲しい.また,常に注意を払っていなければミスを生じるようなカメラはストレスになる.そのための機能の1つが多重露出防止機能である.機能をそぎ落として小型軽量を追求したスーパーセミイコンタだが,本当に必要な機能はちゃんと搭載されていて,それに今更ながら感心させられる.テッサーレンズは,この型まで焦点距離が5mm短い7cm F3.5(35mmカメラで43mm相当)で,極めて高性能なだけでなく,その標準レンズどまんなかの焦点距離も好ましい.出来ることなら,このカメラの現役時代を知る人に,当時の頃のことを聞いていみたい.残された時間は限られている.

 

Zeiss Ikon Super Ikonta 531 (type II), Carl Zeiss Jena Tessar 7cm F3.5
Fujifilm Neopan ACROS,シュテックラー改処方(中川式)

(upload : Mar., 2015.)