10,000km 走行後のインプレッション

通勤のため一月あたり 2,500km, 年間 30,000km 程度のペースで走行するため,もはや 10,000km に達してしまった.そこでこのあたりで一度,最初の印象やいいところ・悪いところを書いておく.
  • 品質について

    ここまで一切感知できる不具合はなく,当然修理工場のお世話にもなっていない.ある意味当然ではあるが,やはり国産車は助かる.

    全体として非常にまじめに作られており,内装の固定方法なども剛性に富み異音が発生しにくいように対策されているからか,このへんでボツボツ発生しがちな内装のきしみ音などもほとんどない.シート表皮や内装のシボもざっくりとした骨太なスタイルとなっていることもあって,傷や汚れが目立ちにくい.贅沢ではないが質実剛健そのもの,というところ.

  • ハンドリング

    意外だが非常にハンドリングが良い,というのがこのタイプ(ショート)のパジェロの最大の特徴だと思う.4輪独立懸架で,フロントがダブルウィッシュボーン,リアがマルチリンクという最も望ましいサスペンションタイプであるが,ストロークもたっぷりである上に取り付けに剛性感があり,スキールするような相当な力がかかってもよれる感じがない.またタイヤの角度が正確に保たれるからか路面の不整やロールに伴ってグリップがちょろちょろ変化することもなく,安心して曲がることが出来る.直進から少し舵を切ったところはマイルドで高速向きだが,グッとロールが深まりコーナリングフォースがかかってからは思いのほか粘る感じがあり,奥が深いという印象.

    ジープ以来の伝統のレイアウトということで,エンジン全体が完全に前輪軸より後ろに収まっており,前後の重量配分は車検証にもあるようにほぼ前後均等である.そのうえオーバハング重量が少ないためかホイールベースが短い割りに意外とヨーモーメントの収束性が良く,スピンなどには陥りにくそうである.どちらかというとバネの柔らかさに対してダンピングが強めで,ロールはするものの姿勢は乱れにくいというところ.

    これまで乗ってきた車は全部足回りに手を入れており,かなり硬いセッティングに慣れていたのでそれに比べると最初は姿勢の変化が大きいことが非常に頼りないと思え,高速道路でも安心感に乏しかったが,姿勢の変化によるグリップ変化が小さいことが体得できるとまったく不安を感じなくなった.ただし純正装着タイヤのグリップは低く,あるところからは滑っていってしまう.ただやはり背が高い車なのでグリップを上げてしまうと姿勢変化により発散しやすくなるかもしれず,これぐらいでグリップの限界を探りながら走るほうが安全かもしれない.どちらにしても峠を走ってもストレスが溜まる種類のものではなく,むしろ楽しむことも出来るものにはなっている.

    ハンドルの感触は重めだがしっとりとしていて,なによりハンドルポストの剛性感が非常に高い.まったくガタがなく,まるで工作機械の回転軸のように高精度なベアリング組でがっちりとつけてあるという感触.これもパジェロの大きな美点の1つで,BMWよりもこの点ではスムーズかつ高剛性と思う.路面インフォメーションと微振動の排除という点でも適切と思う.

    なおパジェロということで不整地の走行性能も必要だが,私自身はモーグル的な泥遊びの趣味はないのでそれほどの性能は要求しない.とはいえ,例えばスキーに出かけるとよく出くわすシーンとして雪の日の朝にちょっと店の駐車場に入ろうとすると入り口に30cm〜50cm ぐらいの雪の山が出来ていたりすることは多く,そういうところにも遠慮なく入っていけるのは便利だし安心.朝駐車場から出ようとするときも,車周辺の雪かきをせずに車道へ出られる.ホイールアーチが大きいためチェーンの装着も楽である.高速道路は落下物が結構多いので前の車では肝を冷やしたことが何度もあったが,そういう意味でも(相対的には)安心.

    フレームをビルトインしたモノコックになったということで,以前より路面の衝撃はダイレクトに入るようになっていると思う.路面に対してサスペンションだけをはさんでタイヤが接しているという感触が強く,もちろんフレームの上でボディが別に動いているような感覚はないので,やや足が固めのスポーツセダンやハッチバックなどに近い乗り味になっている.たとえて言うなら長靴とランニングシューズの違いというところか.

  • エンジン

    アイドリング時,特にエンジンが温まって回転数が下がってからは驚くほど静粛で,エアコンの風量を最小にしていてもそちらが気になるぐらいの静かさになる.同排気量クラスの高級セダン並,かもしれない.

    しかし回転数を上げていくとエンジン音はかなり高まり,BMWの直6に比べるとかなりメカニカルなうるさい感じになる.つまり音が楽しめるタイプではないが,高回転まではスムーズに回転を上げ,苦しい感じはない.たった6000回転までだが軽快に吹け上がるし,レスポンスはかなり良いほうだと思う(BMWの2.5L 直6より軽快でレスポンスも良い).この部分の音と軽快さは,ちょっと小排気量エンジンに近い雰囲気かもしれない.

    パワーは,どこかが特に盛り上がるということはなく全体にフラットな感触.高速道路では割と急坂に属する西宮名塩の坂でも,速度域を問わず5速で何の不満もなく走れてしまうので,2000rpm-3000rpm のトルクも十分だと思う.1000rpm あたりはもうちょっと力があってもいいかもしれないが,このあたりのトルクは最近のエンジンは低排出ガス化のためにどれも厳しく,MTとは相性の良いエンジンが減っているということがある.

  • ギアボックス

    これはこのパジェロでは唯一良くないところ.エンジン縦置きのダイレクトシフトであるにも関わらずストロークが大きく,またあまりかっちりとはしていない.車重のためギアの容量が大きいからか,これよりストロークを小さくすると操作力が過大になるのだろうと思うが,私自身は左利きということもあってもうちょっと力を要してもいいからストロークをつめて欲しかった.シンクロも温まるとそれなりに効くが,冷えているときや回転があっていないときは不十分に感じるので,あまり焦ってギアを叩き込まずリズムを持ってシフトするほうがいい.

    ただしエンジンが非常にレスポンシブで,またペダル配置も悪くないのでヒール&トゥもやりやすく,減速時には積極的にダブルクラッチやヒール&トゥを活用することでより気持ちよく走行できる.むしろそういう操作をやるだけの価値があるのでそういう作業が好きな人にはあまり問題にならないだろう(回転が合わないと気持ち悪いが..).それが出来ない人はあまり街中でエンジンブレーキを多用する気にはならないかもしれない.

    ちなみにブレーキはカックンとすることもなくマイルドに効いて行き,しっかり止まる.ヒステリシスも小さくコントローラブル.EBDの効果絶大で,背が高いにもかかわらず急制動でも安定かつ早く止まることが出来,ABSが作動するまでの懐が深い.踏んだ感触も悪くない.BMWのブレーキは非常に優秀で惚れ惚れしたが,かといってこれもそれほど遜色なく,妻のシビックなどに比べてもはるかに扱いやすい.これでタイヤのグリップがあればもっといいのだが..ただ時々油圧サーボの加圧動作をしているので,アイドリングで停止中に加圧が始まると足の裏に微妙な振動が伝わる.

  • 視界・取りまわし

    背が高いので遠くが見えるのはもちろんだが,昨今の中型SUVとも一線を画すサイズ・全高ということもあってミニバンなどでも背が低いものならその先が見えるぐらいである.例えば初期のオデッセイなら目線は天井の辺りになる.フロントウィンドウが上下に大きく開放感が高いし,ボンネットの先が下がっているので手前も思ったより見える.もちろん左右も問題ないし,リアまわりのプライバシーガラスも濃すぎず見やすい.

    サイドミラーは縦長の巨大なものなので,そのままリアタイヤ付近が見えてバックするときなども縁石が確認できて便利.唯一見えにくいのは後ろの直下なので,ミラーかカメラのどちらかを付けるほうがいいと思う.

    ボディはフロントフェンダーの盛り上がりのために左右がつかみやすく,特に左の前は小さいミラーがあってそれが目安になるのでわかりやすい.フロント方向はボンネット先端までは見えず,またそこから先にもバンパーが出ているのできっちりとは分からない(そこまで寄せる必要はないが..)リアは,幅については両方のミラーでリアフェンダーが目視できるので非常に容易.後ろもドアが直立しているので壁には寄せやすいが,ただし上に書いたように下のほうは見えないのでカメラがなければ寄せるのは難しい(左右から見えれば簡単だが).

    もっとも気になる街中の取りまわしだが,ハンドルがプログレッシブレート(大きく切ると,ハンドルの回転に対するタイヤの切れ量の比率が上がる)になっているためか非常に取りまわししやすく,切れ角も大きい(回転半径が小さい).全長がシビックよりも短いこともあって街中で苦労させられることはほとんどない.前のBMWは全幅が 1750mm と現在の基準では大きいとはいえないが,全長が 4720mm とフルサイズであったためにハンドルが良く切れるにもかかわらず駐車場での転回などに苦労することがあったことを思えばむしろ楽になった印象が強い.ボンネットが短くなったことも寄与していると思う.もちろん幅が2m を超えるバスやトラックが多く走っている状況では当たり前ではあるが,一般走行ではまったく不自由はない.絶対的な幅より視界や隅のつかみやすさのほうが重要ということを実感する.

    ただし絶対的な幅があるので,狭い駐車場に止めるとき,「ここは枠に対して車が寄ってるな・・」というところには止めたくないときはある.でも止めてしまえば出っ張っているのはフェンダーであって,ドア部分は少しへこんでいるのと,ドアの最も幅がある部分は他の車では窓ガラスに近いところということもあって,意外とドアは開きにくくない.背が高いこともあってドアを大きく開けなくても出入りできるため,それほど苦労しない(ただしドア自身はかなり分厚い).ちなみに隣の車が普通の車で,ドアを開けて当たるとすればその部分はサイドステップであることが多いようで傷が付きにくくて助かる.

  • インテリア

    シートは悪くないがBMWほどではない.ちょっと腰のサポートが弱いのと,座面の堅さが均一で中央へ寄せられる感じなので,どうもリラックスしずらい.かといって長距離で不当に疲れたり体が痛くなるものでもないので,普通,といったところだと思う.

    リアシートは平板的な形状でチャイルドシートをつけたりするには非常に具合がいいが,特にカーブが連続するところなどではあまり落ち着かないのではないかなと思う.といっても小型のベビーシートとジュニアシートを左右につけても細身の人なら間に座れる程度の広さがあって,小さい子が泣くときには妻に座ってもらっている.

    荷室は奥行きが小さいが,縦に大きいので意外と積める.例えば三輪車と赤ちゃん用のA型ベビーカーをそのまま並べて積め,まだ余裕がある.一泊のスキー・スノボに行った時も4人分の荷物(ブーツ4セット,ウェアも込み)が全て収まった.ただし上に上にと積み上げることになる.リアドアは横開きなので狭いところでもちょっと開けて中身を取り出すことが出来るのが良い.

    リアシートへの昇降性は心配するほど悪くなく,ワンタッチでシートが畳まれ前へ移動するのは当然としてその移動量が十分大きく,またドアが縦横ともに大きいこともあるのでそのまま頭から正面向いてスッと乗り込むことが出来る.ただし床の高さが高いので,登って入る感じにはなる.実はこの型のパジェロからドアがロング・ショートで別物になり,非常に改善されたのだ(それに対し現行ランドクルーザープラドはショートでもドアはロングと同じままである.)また心理的にも,リアにいても詰め込まれているという感じはなくなった.リアシートについては幅の拡大だけでなく室内の前後の余裕も広がり,足元の余裕もかなり大きいし,荷室も広がったのでリアガラスのそばに頭があるという不安感もない.そのくせ現行ではショートが売れていないのは皮肉である.

  • 電装系

    妙に下位グレードだからとケチらず,キーレスエントリーやセキュリティアラーム・イモビライザーが全車標準であるのは助かる.特にキーレスのスイッチをダブルクリックなどするとドアに連動してミラーを畳んだり展開する,窓ガラスを閉めるなどの操作が可能なのは良い.自動ヘッドライトも特に意に反する動作はせず,通勤経路に3つのトンネルがある身には便利である.この種の車では当然だが,リアドアも集中ロック(キーレス)に連動するので開閉が楽(BMWもそうだったが外車はトランクもキー連動が多く,キー閉じ込みの危険もないので便利だ).

    エアコンはまだ盛夏を迎えていないのでなんともいえないが問題はないだろう.操作パネルは3つのダイヤル(温度,風量,噴出し口)が並んでいる一見マニュアルエアコンのようなタイプだが,各ダイヤルにオートのポジションを持つ実はオートエアコン,というもの.だから非常に直感的で使いやすい.

    ほかは特に変わったところはないが,高速道路通勤ということもありオプションで選択したHIDは正解だった.非常に視界が良い.ただしまぶしさを防ぐために上方向への光のカットは厳しい.背が高いのでオープンカーなどの背が低い車の後ろに付くとリアウィンドウやサイドミラーに光が当たることがあるので,光軸調整機能で下げることがある.

    オーディオはCD1枚がけのものが純正で装着されているが,かなりハイパワーにしても音が割れず,大音響がそのままで楽しめる.標準ではやや中低音が不足するがそれ以外はさして不満はない.

    液晶式のオドメータ部は,トリップメータがA/Bの2系統あり切り替えられるのが便利.ただしチョン押しで切り替え,長押しでクリアとなっているためにガススタンドではやや戸惑う.

  • ランニングコスト

    燃費は当初あまり良くなく,平均が 7.5km/L というところであったが,ここの所連続して 8km/L を超えているので,重量や投影面積を考えると悪くないと思う.燃料はレギュラーでよい.(BMWは9km/Lだった.ただしこちらはプレミアム.)しかし燃料タンクが約70Lと小さく,航続距離が短いのが困る.安全を見ると 500km も走れない.90L は入って欲しい.

    エンジンオイルは意外と少なく(V6だからオイルパンが小さい?)4L ぐらい入るようだ.そのぶん小まめに換える必要があるかもしれない.今のところガソリンとエンジンオイル以外にコストはかかっていない.

  • 総論

    オンロード性能および走りの質感という点で以前のモデルとは別物であり,とにかくがっしりとしたもので高速かつ快適に移動することが出来るもの,という雰囲気が強く出ている.しかしネームバリューや凝った4WDメカニズム,デフなどの出っ張りが一切ない下回りなどの点を含めてクロスカントリー車としての性能も残してあり(取扱説明書には60cm までの渡河が可能であると明記されており,渡河方法まで掲載されている),あらゆる路面状況を想定した上で目的地へ確実にかつ速くたどり着くための最適解といった雰囲気である.

    昨今はライトなSUVや,オンロード性能に特に重点を置いたSUV(BMWやポルシェなど)があるが,そういう中でよりヘビーな本格クロスカントリーと,オンロード系SUVの間のいいところをついた商品コンセプトは独自のものであり,そこをうまくアピールすれば興味を持つ人は多かろうにつくづく広告がヘタだな,と思う.特にショートモデルはロングに比べて積載性で劣るがその分遊び車というか,よりパジェロの性格が強く出ているところがあり,オンロード・オフロードともに一層高いポイントでバランスしているところが魅力だと思う.形も専用のドアや短いリアオーバハングを得てよりスポーティかつアグレッシブで,今やちょっと変わった(マイナーな)車になってしまったということを楽しむには良い.強いて言えば車の性格としてはランドローバーフリーランダーのショートを大型化したもの,というところか.

  • 最後に

    三菱自動車が一連のハブ破損事故で世間をにぎわせており,三菱自動車のユーザとしては自分に責任はないとはいえ,気持ちのいいものではない.これを理由に買い控える人が多くいるであろうことは想像に難くないし,それが無責任な会社に対する社会的制裁というものであろう.これを機会に膿を出しつくし,体質の刷新を図ってもらいたい.

    とはいえ,機械は壊れるものだし,壊れない機械などない.作るのも直すのも人間だからどこかでミスも生じる.といっても国産車の品質は非常に高くめったなことでは故障しない.それでもリコールの周知徹底という意味でマスコミがリコールの度に大きな記事にするからか,リコールを妙に気にする人たちもいるようだが,この感覚で接したら一昔前のイタ車などはえらいことになる.日本は部品メーカの技術力が高く自動車は汎用部品の割合が非常に増えているから,どのメーカでも故障率はそれほど違わなくなっているということもある.

    なんでも100%に近づくと僅かな瑕疵が気になるものだが,メーカとユーザはここいらへんで一旦基本に立ち返り,共にもっと自然体に構えるべきじゃないかと思う.ある程度使用した車であればどこかは壊れるものだし,不当に欠陥だ,リコールじゃないのか,とわめきまくるようなユーザにはぜひ冷静になっていただきたい.ときどき,新車が故障すると車を取り替えろとか言っている人もいるが,ウチは全車どれも一定期間は絶対に故障しません,なんてメーカはないのであって,それでもユーザは保証制度に守られ無償修理を受ける権利があるわけだから故障は運が悪かったと思ってありがたく頂戴するべきである.メーカはメーカで煮詰まりすぎずにリコール情報は即座にかつ完全に出してもらいたい.ただしそのことが批判されるべきではなく,むしろ歓迎すべきことだ.もちろん統計的に低品質なメーカや車種,部位は改善を図らねばならないし,そのための社会的仕組みというものは必要だ.

    それよりも,イマドキの消費者にはもっと車自身の魅力を感じて欲しい.好きなものは好きだと言う,欠点よりも長所を褒め称え自己満足に至るほうが豊かな消費生活を送れると思うのは僕だけだろうか. 外車もしかり.せっかく買うのだからもっと多様で個性ある車選びに踏み出して欲しい.他人様を載せることだけ考えて何の個性もないデザインで,運転だって楽しくないようなミニバンに乗っても面白くなかろう(カッコ良く,運転も楽しいミニバンもあるが..).