実は便利な円形計算尺 コンサイス No.300

コンサイスの計算尺は円形計算尺である.普通の計算尺では,滑尺を動かすことにより対応する目盛りが読み取れなくなる「目外れ」が発生するが,円形計算尺ではそれが発生せず,極めて使いやすい.その上この計算尺は国産であり,現在も新品が購入できる(2015年7月現在).

C/D尺の切れ目から内側を滑尺とすると,表裏の滑尺は独立しており,それぞれ独立に回転する点が一般的な計算尺と異なる点であるといえる.


乗除算の計算例.

上は円形計算尺で乗除算を行っている例である.内側の滑尺を回転させ,C尺の1をD尺の2に合わせている.このとき D : C が 2 : 1 になっており, 4 : 2, 8 : 4 などが見つかる(赤線部分).また円形計算尺では1周するごとに10倍となるので,青線の部分は 1.2 : 6, 1.6 : 8 ではなく,12 : 6, 16 : 8 を表していることになる.


LL尺の使用例.

C尺の 1 を,カーソル部分のように LL2尺の 2 に合わせると,C尺に対応する LL3尺上で 22 =4, 23 =8, 25 =32, 28 =256 などが計算できる(赤線で示した箇所).また20.5 = √2 ≒ 1.414 も求められる(青丸で示した箇所).


三角関数の使用例.

ここでは辺の長さが 3 と 4 の長方形について,その対角線の長さを求めている.まず左の赤丸で示したように D 尺の 4 に C 尺の 1 をあわせる.つぎにカーソルをD尺の 3 にあわせると,この比率 3/4 = 0.75 がC尺上で求められる.このことから,T1 尺で arctan(3/4) ≒ 36.9°が求められる.この角度は,辺の長さが 3 と 4 の長方形に対角線を引いた時に現れる直角三角形のうち,もっとも小さい角の角度である.

次に,S 尺上の 36.9°がカーソルの線に合うように滑尺を回転させる.sin(36.9°) は斜辺の長さと最も短い辺(長さ3の辺)の比率であり,それが 0.6 ( = 3 / 5) であることがC尺上で読み取れる(青丸).このとき,C尺の 1 に対向した D 尺上の値 5 (緑丸)から,対角線の長さが 5 であることが分かる.要するに,対角線を引いて現れる三角形のもっとも小さい角の角度をαとすると,tan(α) = 3 / 4 からαを求め,つぎにこのαから sin(α) = 3/5 を求めることにより対角線の長さ 5 を得ている.

なお,ST尺は 6°以下の sin と tan の計算に利用し,T1/T2 尺は 6°〜84°の範囲の tan を計算するために利用される.40秒より小さい角の sin/tan は,角度をラジアンに直し,sin(θ) ≒ tan(θ) ≒ θ であることを利用して求める.

円形計算尺は目外れがなく大変使いやすいが,この CONCISE No.300 では目盛りの一致精度が若干低い点が気になる.最初の写真でも分かるように,一箇所を精度良く合わせても,他の箇所で線の太さ程度のずれが生じることが多い.目盛りの印刷位置と円盤の機械的な中心を一致させるのが難しいのかもしれない.