クルタ計算機の仕組みと整備
クルタ計算機は極めて精巧な機械であり,かつ開口部も多いため,製造中止から50年近くが経った現在では適切なメインテナンスが必要だろう.ここでは手元にある個体のオーバーホール過程の写真を紹介するとともに,特徴的な仕組みについても順次コメントする.
なお,オーバーホール先の連絡先などについては質問を頂いても情報提供することは出来ませんのでご了承下さい(国内ではありません).
クルタ計算機の分解
これから整備を受けるクルタ計算機と工具類.細かな部品が多いため,細かな容器も用意されている.
上部はクランクのピンを抜き,さらにクランク基部のCリングを外す.ここには写真はないが,底部はマイナスネジ2本で止められている.
クルタ計算機は互いにスライドする上部と下部に分けて整備される.まずは下部の整備から.
底部の3箇所の蓋を外し,セットレバー部を取り外す.
続いてカウンターの加算・減算切り替えレバーを取り外す.
繰り上がりを上の桁に伝えるための繰り上げスライドバーを曲げないように慎重に取り外す.
並べられた部品類.上段カウンター切り替えレバーとセットレバー機構,下段は繰上げスライドバー.
演算軸を抜けないように固定しているリングを固定する.
演算軸を1本ずつ抜いていく.
軸受け同士を固定しているボルトを外す.
主軸を取り外す.演算回数カウンターを加算・減算(補数加算)するためのカムが見える.演算回数カウンターは,加算時には最下位の桁にのみ1が足される.また減算時にはすべての桁に9が足される(ただしキャリッジが回転されると特定の桁より下の桁には加減算が行われない).
不要な回転を防ぐための回転抑止カムを取り外す.
潤滑の状況を確認する.後ろに写っているのは演算軸.
生前と部品が並べられたところ.
セットレバー機構からノブが抜かれ,軸と分けられる.ノブ内部にはクリック感を与えるためのバネとボールが入っている.
超音波洗浄器で繰り上げレバーを洗浄する.
演算軸にはめられているギアを洗浄する.
洗い上がったところ.
セットレバーを洗浄.
演算軸は溶剤とブラシで洗浄する.
演算軸は溶剤とブラシで洗浄する.
繰り上げレバーを洗浄.
セットレバーの軸を洗浄する.セットレバーには値を表示する部分のほか,レバーの動きに応じて軸を回転させるための螺旋状の溝と,レバーの各ポジションにクリック感を与えるための穴が並んでいる.
投影機で演算軸の歪みを検査する.
演算軸のぶれを旋盤とマイクロメータによりチェックする.
演算部の組み立て
分解と逆の手順で組み立てていく.
接触部には適宜注油をしていく.
演算軸にはギアがスライドする溝が切ってあるものとそうでないものがある.溝が切ってない軸を先にセットする.
バネの形状を投影機でチェックする.
ギアがスライドしないタイプの演算軸(セットレバーが対応していない演算軸など)は,ギアを所定の位置で固定する.
主軸周りの部品にも注油をしながら組み立てていく.
上下の軸受けを3本の柱で固定したのち,残りの演算軸を挿入していく.このとき,1本ずつに適切な演算計数歯車を挿入する.
演算軸までが組み上がったところ.
それぞれの演算軸と軸受けの間に注油する.
下部の軸受けにも注油.
演算軸を固定するリングを挿入し,所定の角度で固定する.
演算回数の減算・加算(計数モード)を制御する部品を組み立てる.クリック感を出すためのバネとボールを装着する必要がある.
ボールを専用工具で押し込みながらシャフトを挿入する.
計数モード軸を装着する.
計数モード軸を装着したところ.このノブの下端位置は太いチューブにより規制されている.
次にセットレバー機構を組み立てる.同様にバネとボールを装着する必要がある.
バネにボールを載せる.
専用工具でボールを抑えながら軸を挿入する.
軸の位置と表示部の回転の関係を決めるネジ(螺旋状のみぞに入るキー)を装着する.
セットレバー機構が組み上がったところ.
セットレバー機構1つ1つに注油を行う.
繰り上がり伝達レバーにも注油する.
繰り上がり伝達レバーを取り付ける.主軸に備わったカムがよく見える.
演算回数カウンター部のすべての繰り上がり伝達レバーが挿入された様子.
シリアルナンバーの記載された底板とともに.
演算部の繰り上がり伝達レバーを装着する.
すべての繰り上がり伝達レバーが挿入された様子.
繰り上がり動作の連携をチェックする.
セットレバー機構を取り付けていく.
すべてのセットレバーが取り付けられ,下部機構が完全に組み上がった.
外装を取り付ける.
底のパネルを取り付ける.
2本のマイナスネジを締めて,下部機構の組み立てが完了する.
キャリッジ部の整備
23個の数値が表示されるキャリッジの分解整備を行う.
キャリッジ上部の部品(リセット機構)と,各数値の空回りを防ぐボール・バネ(星形の部品)が取り外された.
専用工具を用いてキャリッジ内部を分解する.
キャリッジ内部が完全に分解されたところ.星形の部品にそれぞれの数値表示部が挿入されている.
数値表示部・ギアを洗浄する.
数値表示部のキャリアを清掃する.
キャリッジの分解・清掃が完了したところ.
1本1本に注油しながら数値表示部を挿入していく.
同じようにみえるギアにも種類があり,リセット動作と密接に関連している.
ギアの空回りを防ぐボールを乗せ,バネで抑える.
リセット機構を取り付ける.
専用工具で全体を固定する.
キャリッジを下部機構と接続する.
最後に,クランクにピンを挿入して組み立てが完了する.
動作をチェックして,オーバーホールが完了する.