国内で最も普及した機械式計算機 タイガー計算器
タイガー計算器は国内で最もよく普及した機械式計算機で,1970年ごろまで会計や設計業務等で盛んに用いられたため,1950年ごろまでに生まれた人々にとっては懐かしい機械ではないかと思う.この種の計算機(ピンホイール式などと呼ばれる)は世界中で製造されたが,中でもこのタイガー計算器は戦前(1923年)に大本寅治郎が開発し,その後も電子計算機にとって変わられるまでの間,改良を加えられながら製造され,極めて信頼性の高い機械式計算機として定評を得た.
加減算操作の実例
まずは,456 に 123 をかける動作を動画で示す.
この動画ではまず置数レバーに456 を置き,クランク・ハンドルを3回回すことでその値の3倍を求めている.次にキャリッジを右へ1桁ずらし,ハンドルを2回回すことで,10倍の値である4560を2回加えている.最後に45600を加えて,456 x 123 の答えである 56088 を得ている.
タイガー計算機ではハンドルを何回も回さないとならないため,特にどれかの桁に 7, 8, 9 などの大きい値があると疲れてしまう.そこでテクニックとして,上の桁に 1 大きい値を与えて加算し,その下の桁では引き算を行うことでクランクの回転方法を節約する方法がある.
この動画では 123 に 278 をかけるのに,まずは 300 をかけ,次に 20 倍を引き,さらに 2倍を引くことで 278 倍を得ている.この動画のようにハンドルを反時計回り(手前向き)に回すと減算が行われ,左カウンターの値も減算される(左カウンターは減算回数を加算していくこともできるが,この機種では右カウンターをクリアしてから最初にクランク・ハンドルを時計回りに回すと加算回数を加算するモードになり,逆に最初にクランク・ハンドルを反時計回りに回すと減算回数を加算するモードとなる.×と÷の記号のついたレバーがそのモードの切替を表している).
次に,1233を求める様子の動画を示す.
この動画ではまず,123 に 123 をかけた値 15129 を求めている.次にキャリッジを戻し,置数レバーを0クリアしてから「連乗用ツマミ」を押しながら右カウンターをリセットすると,自動的に右カウンターにあらわれていた値(15129)が置数レバーに移される.この値にまた 123 をかけることで,1233 = 1860867 を求めている. 最後に,割り算 123 / 77 の様子を示す.
割り算も,我々が手計算で行う筆算のように引き算を繰り返すことで行う.キャリッジを右いっぱいまで動かし,右カウンターの左端に割られる数 123 を置数レバーを用いてセットする.次に右カウンターと置数レバーをリセットし,置数レバーに割る数 77 をセットする.次にハンドルを手前向きに回す.1度目の減算ではまだ余りが正の値であるが,2度目の減算を行うと負の値になるので,ベル音が鳴る.タイガー計算器では,引き算の結果 0 より値が小さくなる,つまりカウンターが一周するとベルが鳴る.逆に加算によって最大値(999..999)を超えてカウンターが一周してもベルが鳴るようになっている.引きすぎた場合はすぐにハンドルを時計回りに回して引きすぎを元に戻し,キャリッジを1段左へ動かすことで,より下位の桁の値を求めていく.結果として, 123 / 77 = 1.5974025974 が求められている.カウンターの下部に設けられているピンは位取り(小数点の位置)をメモするためのもので,計算動作には影響しない.この動画では左カウンターの位取り指針は 11 と 10 の間にセットすべきであったが,操作を忘れている.
タイガー計算器などの機械式計算機ではさらに,一定の手順により任意の数の平方根を求めることができるが,この手順については別のページで解説することとする.
現在の状況と整備について
タイガー計算機を製造していた「タイガー計算機株式会社」は現在,「株式会社タイガー」となり,運輸関連システムやデジタルタコグラフの販売を行っているが,現在もタイガー計算器の歴史や操作方法を紹介するページを置いており,各部の名称や使用法も詳しく紹介されている.また現在も「工房 游次」がメーカー公認サービススポットとしてオーバーホール等の整備を行っており,ここで紹介するタイガー計算器もここでオーバーホールを済ませた個体である.また ,当時の使用法説明書を極めて忠実に復刻したメーカー公認の使用法説明書も頒布(販売)されている.ここで紹介した個体は,全体として6期に分かれるタイガー計算器のうち5期に相当するH62−20の型番が付いた機種で,タイガー計算器の中では最も多く作られたタイプである.オーバーホール済みのものでも安価に入手できるが,金属外装を持つ古い機種はより高価になる.