ミニマルカメラ ELIKON 535

ELIKON (Эликон) 535 は小型軽量な35mm判フルサイズカメラであり、AGAT (АГАТ) 18Kと同じく、ベラルーシの BelOMO が1990年前後に製造した。大きさはオリンパスXAシリーズに近く、重さもわずか165gと極めて軽量だが、電池を要しない純粋なメカニカルカメラである。この大きさ重さで、ピントと露出をともに調整することが出来るメカニカルカメラは、他に例を見ない。まさに、ミニマルかつ稀有なカメラなのだ。そこでここでは他の200gクラスのカメラと比較しながら、その魅力に迫りたい。

ELIKON 535 の概要


左から、CONTAX T, ELIKON 535, オリンパス XA2

ELIKON 535 を一言で表すとすれば、「電池不要のオリンパスXA2」のようなカメラである。小型軽量なプラスチック製のボディに 35mm レンズを搭載し、ゾーンフォーカスでピント合わせが出来る。ただし自動露出や露出計は搭載しておらず、電池がいらない。レンズ下のスライドバーを左右に動かすことで絞りを F3.8〜16 の範囲に設定することができ、それに応じてシャッター速度も 1/90〜1/500秒の範囲で変化する、機械式・マニュアル露出のプログラムシャッターを搭載しているのが最大の特徴である。


左:オリンパス XA2, 右:ELIKON 535

このモデルの先祖にあたる ELIKON-1(または番号がつかない ELIKON)はオリンパスXAを参考に開発されたカメラであり、XA同様に連動距離計や絞り優先AEを搭載するなど、複雑で高密度なカメラであった。しかし技術が西側より遅れていた東側経済圏には荷が重いカメラであったようで、続くELIKON-2では距離計が取り除かれ、さらに ELIKON-3, ELIKON-4 はフラッシュを搭載するかわりに機械式の単速シャッターを搭載した簡易なカメラに移行してしまう。そこに、絞り値とシャッター速度を連動させることで露出制御の範囲を広げたハーフ判カメラ、AGAT-18のシャッター技術を導入したと考えられるのが、ELIKON シリーズ最後のモデルであるこの ELIKON-535 である。そのような経緯のため、スプロケット(35mmフィルム両側の穴にかかる歯車で、上の写真では画面の右下に1つだけ置かれている)の位置など、ところどころXAシリーズに似た部分が散見される。

そのような視点から再度 ELIKON-535 を見てみると、ボディ内に埋め込まれたレンズを隠すスライド式の蓋があり、その蓋を閉じるとシャッターがロックされることや、ボディ背面の巻き上げノブの配置など、あちこちにオリンパスXAシリーズの影響が見られる。差し色となっている赤色のシャッターボタンや、ボディ側面中央に設けられたストラップラグなどにもXAシリーズの面影があるのではないだろうか。

もちろん、シャッターのメカニカル化などに伴い、結果的にかなり独自性の高いカメラへと変貌を遂げているのも確かである。カメラの幅はXA2とほぼ同一であるが、カメラの高さや厚みが増加し、全体に一回り大きくなっている。しかし軽量化されており、XA2 の 207g に対し ELIKON 535 は 165g しかない。また、シンクロ接点が備わる標準的なホットシューが設けられている点も現在では魅力的に思える。特に、外部調光(外光オート)のフラッシュを使用する際に、絞りのF値がきちんと設定出来る点は好ましい。


ELIKON 535 では絞りの設定と連動して全体でシャッター速度が2段以上変化し、それはほとんど F5.6とF8の間で変化することが分かる。ボディ下部のスライドレバー上の絞り値の間隔はそのような変化に対応しており、F5.6とF8の間が広くとってある(言い換えると、このレバーはEVに対して等間隔となっている)。ボディ下面のスライドレバーでフィルム感度を ISO50〜400 の範囲で設定できるが、これはカメラの動作には直接関係せず、天気マークの下(透明窓内)の指標の位置をずらすだけとなっている。

しかし、実際にこのような単純な仕組みでシャッター速度がちゃんと変化しているのか不審に思われる方もあるだろう。そこで、1200fpsのカメラを用い、シャッター開閉の様子を動画撮影し、実効シャッター速度を計測してみた。結果、思った以上にシャッター速度は正確であった。絞りが閉じたときはシャッター効率が高くなる(絞りが開く途中や閉じる途中の時間が短くなる)ため、絞りをF8以上に閉じると実効シャッター速度が変化しないことが分かる。


レンズのピントはレンズ脇、向かって左側に露出したノブで調整でき、上側の窓からゾーンフォーカスのアイコンを確認できる。これらのアイコンと距離の関係は、上の取説のとおりである。XA2に比べ、より細かく設定することが可能である。フィルムカウンターは順算式で、裏蓋を開くと自動でリセットされる。ファインダにはアルバダ式のフレームが備わり、パララックス補正指標も設けられている。

レンズと描写


ELIKON 535 には 35mm F3.8 のMinar-2 (Минар-2) レンズが装着されている。名前の類似性から、よく LOMO LC-A の Minitar-1 レンズの後継のように言われることがあるが、そうではない(オリンパスXA を模倣したカメラ、ELIKON-1に装着された 35mm F2.8 レンズが Minitar-2 である。また Minar の初代レンズは 35mm F4 であり、ELIKON-3, ELIKON-4 に装着されている)。

取扱説明書等にはレンズ構成が示されておらず、インターネット上の記述では3群3枚のトリプレットレンズのように言われているが、界面での反射光は7つ観察され、テッサー型ではないかと推察される。またこのカメラはシャッター羽根が絞りを兼ねており、ビハインドシャッターであることから、ビトウィーン絞りに比べ蹴られ(vignetting) の影響を受けやすい。そのため、前玉径を以降のレンズよりも大きくするなど、周辺光量の確保について一定の配慮が見られる。すべての面にコーティングが施されており、一部はマルチコーティングが用いられているように見える。

撮影例





その他の撮影例はphotogradation - a gallery of light and shadowへ。

参考文献