富士フイルムのカメラとレンズ/富士の病

2009年8月

 いまだ一般的に、富士フイルムは写真用のフィルムを作っている会社だと認知されている。だが実際には現在、医療用機器やサービス、印刷関連機器、さらには化粧品分野にも進出し、既に写真の占める割合は小さくなっているらしい。先日、富士写真フイルムという社名から「写真」がとれて、富士フイルムに社名変更したことも記憶に新しい。でも僕にとっては今も、なくてはならない写真感材メーカだ。フィルムはずっと、NEOPAN ACROS をメインに使っている。35mm のパトローネも気がつくとこんなに貯まってしまう。メインは中判なので、そのスプールはもっとたくさん余っているけれど、中判は使い終わると影も形もなくなるので並べなかった。

 富士フイルムはそして、意外と認知されていないけれども、大カメラメーカだった。フイルムをなるだけ多く消費してもらうという至上命題もあって、昔から様々な工夫を凝らしたカメラが発売されてきた。カメラ名のブランドも「フジカ」という独立したものがあったが、こちらはとうとう「ニコン(日本光学)」や「キヤノン(精機光学)」「オリンパス(高千穂光学)」などのように、ついに社名にはならなかった。けれど特に大衆向けのカメラにはめっぽう強く、カメラレビュー「クラシックカメラ専科」No. 44 の特集「富士写真フイルムのカメラ」には 350 機種以上が挙げられている。特にフィルムメーカらしく、110 や APS などの特殊フォーマットやフォトラマなどのインスタントカメラが大変充実しているが、やはりもっとも数が出たであろう銀塩コンパクトカメラの充実には目を見張る。

 現在はデジタルカメラがすっかり主流になってしまったため、既にフィルムをたくさん売るためのカメラという位置づけで富士フイルムのカメラを語ることは出来ないが、それでも独自の優れた機能・性能を持った撮像素子を設計製造し(現在は設計だけを行い、製造は他社に委託している)、それを搭載したカメラを販売しているのはフィルムメーカの意地かもしれない。特許出願などからは、フィルムで培った化学の技術を応用した、まったく新しい撮像素子の開発に現在も熱心に取り組んでいることが分かる。

 そして、富士フイルムのカメラとして忘れてはならないのが、プロ向け、またはマニア向けのカメラだ。カメラそのものとしてはあまり商売にならなさそうなものでも、それを使ってもらってフィルムが売れればいい・・・ということなのか、あまり大メーカが手がけなかったカメラがいくらかある。35mm カメラが一般化してからは、市場規模によるものなのか、棲み分け的な不文律なのかはともかく、中判カメラはもっぱらマミヤやブロニカといった、規模が小さな中判専業メーカが手がけるもので、ニコンやキヤノンは手を出さない分野だった。富士フイルムはその中では例外だろう。だが品揃えとして見てみると正面からぶつけるのではなく一定の遠慮も見られ、それゆえブロニカやマミヤとは一風違った、個性的だったり先進的だったりするようなカメラが多いのが魅力である。

 富士フイルムは優れたレンズを設計製造できる部門を配下に持つ、ということも忘れられない。富士フイルムのレンズのうち高級なものにはフジノンという名前が冠せられ、これは現在、富士フイルムグループのレンズ部門を受け持つ子会社「フジノン株式会社」の社名にまでなっている。レンズ設計が優れていることもさることながら、特に乱反射を抑えるためのコーティング技術に自信を持っているようで、EBC という独自コーティング技術の名称をレンズの銘板に刻むほどであるが、実際に EBC, SUPER-EBC フジノンのレンズは非常に乱反射が少なくすっきりした絵をもたらしてくれる。

そのようなことで、富士のカメラを買うとその魅力にとりつかれてしまい、次々と富士のカメラを買ってしまう・・この現象をニコマートメーリングリストでは「富士の病」と呼び恐れられているが、ご他聞に漏れず僕も気がつけばどっぷり冒されてしまっていた。以下はその闘病記であるが、名前の通り治癒する見込みはない。

FUJICA GL690 Professional(1973)

 6x9判(56mm x 84mm)という大フォーマットのカメラである。従来、この判のカメラはマミヤプレスやホースマンプレスなどのプレスカメラが中心で、フィルムの巻き上げとシャッターのセットが独立していて使いにくいものだった。これを改良して、35mm カメラと同様の使い勝手で撮影できるようなカメラとして企画開発されたということである。

 G690, G690BL に続く3機種目として登場した GL690 は細部が改良され、かつ軽量化されて完成度の高いカメラとなったが、レンズが交換できる機種としては最後のもので、続く GW690 / GSW690 系からはレンズ固定式になってしまった。

写真では広角レンズの 65mm F5.6 とその専用ファインダが装着されており、隣に標準レンズの 100mm F3.5 と、このカメラのもう一つの魅力である超広角レンズ 50mm F5.6 が置いてある。このカメラにはアイピースに取り付けるアクセサリシューアダプタも用意されており、写真ではこれを用いて50mm用の専用ファインダも同時に取り付けている。このアダプタを使うと距離合わせとフレーミングで移動量が小さくなるという利点もある。

レンズはこれらの 50mm F5.6, 65mm F5.6, 100mm F3.5 のほかに、150mm F5.6, 180mm F5.6 が用意されている。またレンズ内部に自動露出機構を内蔵した 100mm F3.5 レンズがあり、また初期の広角レンズに 65mm F8 もあった。レンズ交換式レンジファインダー中判カメラのレンズラインアップとしては多い方だ。50mm F5.6 は超広角レンズなのに非常に小さく、評判も高いレンズであるが、65mm に比べると流通量が少なく市場で見つけるのは難しい。フードは50mmと65mmで共通である。

 シャッターがレンズ内部に搭載されているため、レンズを外すとフィルムが外光にさらされてしまう。それを防ぐために、カメラボディ底のノブを回転させることでフィルムの直前に遮光幕を展開することが出来、日中でもレンズ交換が出来る。この方式は特許が切れてから他のカメラにも用いられるようになった(ニューマミヤ6、マミヤ7、あるいはブロニカRF645のことであろう)、とのことである。

ファインダ内には 100mm 用と 150mm 用のブライトフレームが常時表示されていて、パララックス補正もされる。ファインダはかなり見やすい方だと思う。それ以外のレンズでは専用のファインダを取り付けてフレーミングを行うことになる。

 取り扱いが簡単で機動性が高いと言うことが買われ、観光地や結婚式の集合写真の撮影では定番のカメラとなった。同じ形で6x7判10枚撮りの GM670 がある。マミヤプレスなどと競合する関係だが、プレスカメラとしての機能を省くかわりにセルフコッキングを実現したという意味で正面から競合するカメラではないと思う。

FUJICA GS645 Professional(1984)

 こちらはプロ用と言うよりも、山歩きなどで風景撮影をするハイアマチュア向けのカメラとして企画されたものだろう。古くはイコンタやパールなど、セミ判の蛇腹式折りたたみカメラは存在したが、このカメラが出た頃には蛇腹のカメラはもうほとんどなく、その機動性を懐かしみ求める層に向けて作ったものと思われる。このカメラもセルフコッキングで、かつ露出計を内蔵しているという点で近代的で、マキナ67に似たコンセプトとも言えるが、6x4.5判なので多く撮れるというところがありがたい。

 欠点は蛇腹の材質が悪く、現在では蛇腹交換を経ていないものはほとんど光線漏れを起こしてしまうというところ。レンズを保持する部分やシャッターリリースの連動機構など、メカ的にもあまりできがいいとは言えないが、やはり645判で折りたため、セルフコッキング、露出計が内蔵されているという条件では唯一の機種で、捨てがたい。モノクロフィルム中心の僕は使わないが、220フィルムが使えるのも旅行などでは便利だろう。

 レンズは 75mm F3.4 (35mm 判で 47mm 相当)で、この明るさ・焦点距離では古くから3群4枚のテッサー型レンズが使われるところ、4群5枚のレンズを奢っているところも美点である。実際、堅めの描写だがよく写る。

 折りたたみ機構の構造や商品コンセプトなど、2009年に新発売された GF670 Professional の前身といっても良いと思う。ちなみに2台もあるのは、あちこち不調を抱えている1台を修理するよりはと、蛇腹が交換直後の2台目を買ってしまったからである。古いほうは将来の部品取り用、の運命か。

GA645 Professional(1995)

 オートフォーカスを搭載した初の中判カメラということで話題となったカメラである。このカメラはよりはっきりとアマチュア向け、特に中判を始めてもらうための間口の広い入門機、といった位置付けであることが当時カメラ雑誌の一等地を占めていた広告からも分かる。

 カメラの成り立ちは、はっきり言えばコンパクトカメラをそのまま巨大化したような内容であり、フラッシュを内蔵しているのもそれらしい。といっても機能としてはいわゆる「高級コンパクトカメラ」といっても良い機能を誇り、プログラムAEの他に絞り優先AE、さらには絞り値とシャッター速度を自由に選べるマニュアル露出も可能である。7枚の絞り羽根を持つ虹彩絞りで細かく絞り値は設定できるし、シャッターボタン半押しでレンズが繰り出される(タイムラグが少ない)方式にもなっている。他に被写体までの距離を入力するマニュアルフォーカスや露出補正機能も持つ。

 ファインダ内表示はシャッター速度と絞り値に加え、AF機構が求めた被写体までの距離がデジタル表示される。これがないとAFが測定に失敗したかどうかが分からないので、失敗を避けるためには必須の機能といえる。AFシステムも赤外線アクティブ方式と位相差パッシブ方式の両方を備えるハイブリッド式で、あくまでこの種のAFとしては制度も安定性も優れていると思う。ただしやはり、一眼レフカメラなどと比べピントが本当にその物体に合っているかどうかは分からないし、小さなものにピントを合わせるのも難しいことがある。

 このカメラの最大の特徴はレンズだと思う。60mm F4(35mm 判換算で 37mm相当)の準広角レンズだが、これが開放からめっぽうシャープに写る。完璧なレンズといっていいと思う。だからこそ、ピントが僅かでもずれると目立ってしまうのだが。。レンズ繰り出し機構もカムではなく大径のヘリコイドが使われており、沈胴式だがしっかりしている。中判カメラとしてはかなり軟派で、それゆえ人気がないが、富士の技術力とまじめさを思い知るカメラである。

 フィルムはスタートマークあわせをしなくても自動的に1コマ目を合わせる「オートマット方式」だが、ローライフレックス等のようにフィルムの厚みを使うのではなく赤外線センサでフィルムの反射率を測る方式である。このあたりも中判が初めてというユーザを取り込もうとした苦心が伺える。またフィルムサイドに撮影時のデータがうつし込めるが、日付・シャッター速度・絞り値、それに露出モードやAF使用の有無まで記録されるのはおもしろいし実用的だ。

 とにかく簡単に綺麗に写ってしまう上、中判カメラとしてはコンパクトなので、つい甘えてしまうカメラである。

GA645Zi Professional(1998)

 上記 GA645 シリーズの最後を飾る機種である。GA645 には兄弟機種として 45mm F4 (35mm 判換算で 28mm 相当)を搭載した GA645W があり、またそれらを改良した後継機種 GA645i, GA645Wi がある。i が付いたモデルは富士フイルムが提唱する中判フィルムの改良規格「バーコードシステム」に対応しており、フィルムを裏紙に留めるテープに印刷されたバーコードでフィルム感度と 120/220 の別を自動設定するようになっている。この GA645Zi もこの機能が搭載されている。フィルム感度の自動設定は電子回路の記憶値変更に過ぎないので驚くには値しないが、120/220 の変更ではボディ側に備わった4つのピンが動いて圧板の位置を変えるという、かなりコストがかかりそうな機構が備えられていて、「ちょっと、そこまでしなくていいのに」と思わせられるところがある。

 基本的には、単に GA645 シリーズの単焦点レンズをズームレンズ(55mm - 90mm F4.5-6.9)(35mm 判換算で 34mm - 56mm 相当)に置き換えただけのカメラだが、良く見るとあちこち変更されている。まずレンズの側方にあったAFセンサ類が通常の位置(レンズの上)に移動し、普通のカメラっぽいデザインになった。メインダイヤルと液晶画面が入れ替えられて、ボディ上面に2つのダイヤルが並びカメラらしくなるとともに、液晶が裏蓋に移動して見やすくなった。縦吊り・横吊り両対応。デザインというとこのシャンパンシルバー色になった(別にブラックモデルもある)のが大きな変更点だが、実はこの外装部分はチタン製である。高級コンパクトカメラというとチタン外装(CONTAX T2 とその後継機種、Nikon 35Ti/28Ti, Minolta TC-1, Leica MINILUX, ...)、というお約束に従ったわけでもないだろうが、確かに見た目の印象はいかにも「一般向けのコンパクトカメラ」というか、「ガリバーズ・カルディア」から「高級カメラ」に変わったように感じられる。

 他にはファインダの形式が実像式になったこと(それにより視度補正がついたが、倍率が下がり、また見にくくなった)、またブライトフレームのパララックス補正が連続的な機械式から液晶表示の段階的になったことが挙げられる。被写体までの距離表示も数値でなくバーグラフ表示なり、直感的だけど、ちょっとアバウトになった。

 肝心のレンズだが、これは「ズームだけど侮れない」といったところか。開放から非常にシャープで文句の付け所はほとんどない。確かに「もしかしたら GA645 ほどではないのかな」という気もするが、ISO100 のフィルムを使い被写体を選んでも、その差は確信を持てない程度のものだ。F4.5-6.9 という暗さが気になるところだが、ワイド端では 1/3 段だけ暗いだけで、そこを使っている限りは GA645 に対してさほど不利ではないだろう。僕自身は標準レンズが好きなので、F6.9 と暗く、たった 1.6倍ズームとはいえ 90mm まで焦点距離が伸びるという1点を買ってこのカメラを使っている。前から見ると小さなレンズもフィルム側からみると大きなレンズが使われており、ハレ切り板も豊富に備えられていて、実際に光源が写り込んでも破たんしないのはさすが SUPER-EBC FUJINON である。

FUJICA COMPACT DELUXE(1968)

 これは60年代によくある一見なんでもない、大衆向けのコンパクトカメラの1つだ。この種のカメラだとキヤノンのキヤノネット、ミノルタハイマチック、オリンパス35、のあたりがメジャーでファンも多い。といってもS型ニコンやキヤノン7のようなレンズ交換式のカメラほどの人気はないし、実際にこれらよりは安価なカメラだったから仕上げや操作感触は劣ってしまう。けれども一眼レフがこれらの高級レンジファインダカメラを置き換えてからも売れ続けたので、技術の進歩によってすぐれたレンズを備えているものがあり、それが「噂が噂を呼ぶ」ような形でマニアの心をとらえているようなところがある。実際、キヤノネットQL17 G-III のあたりはよく写り、使いやすいこともあってかなり高騰した時期もあったらしい。

 このフジカもそのようなカメラの1つである。ただしかなりマイナーである。だがこれらのレンズ固定式レンジファインダーカメラのファンの間ではよく写ることで有名で、このカメラをもってして最高とする方もおられるようである。レンズは FUJINON 45mm F1.8 であるが、僕自身はまだ、それについて語るほどこのカメラで撮ってはいない。しかしその他の仕様の部分もなかなか優れており、シャッターは機械式(電池がなくても動作する)で、それに対してシャッター速度優先式に絞り値が決まるが、AUTO 位置から絞りリングを動かすと F1.8 - F22 の間の任意の絞り値を選んでマニュアル露出で撮影することも出来る。露出値はカメラ上部(軍艦部)とファインダ内の双方で読み取ることが出来(適正絞り値が指示される)、軍艦部の露出計指針はマニュアル露出時でも動作するという優れものである。

 ピント合わせは鏡筒部でなく、ボディ背面のダイヤルで行う。マキナ67マミヤシックスも同様の操作感覚だが、距離指標の見せ方も含めて一番似ているのはフォクトレンダーのヴィテッサだろう。レンズの鏡筒のまわりには絞りとシャッター速度のダイヤルがあるため、こうやってフォーカシングが分かれているのは混乱しなくて良いが、そのせいで巻き上げレバーがボディ底面へ追いやられている。

 このカメラもまた富士のカメラらしく画質の追求という点でもまじめに作られていて、GL690 と同様、レンズ後端からフィルムまでの空間、いわゆる暗箱の内面が完全に植毛紙で覆われている。

FUJICA Half(1963), FUJICA Drive(1964) 2024/6掲載

 ハーフ判カメラである。フジカドライブは、フジカハーフから巻き上げレバーを取り除き、底にスプリングモーターを装着したものである。フジカハーフはボディ底にフィルムカウンターと巻き戻しボタンがあったのを、このカメラではレバーがなくなって空いたカメラ上部にちゃんと移してあるところは芸が細かい。その他はほぼ完全に同一である。

ハーフ判カメラが登場し市場を席巻したことに対し、フィルム消費量が減ることにフィルムメーカは難色を示したとかいう話もあるようだが、とにかく1959年のオリンパスペン登場で一気に盛り上がったハーフ判市場を無視できず、遅まきながら参入したといったところか。スプリングモーター式の巻き上げは、このカメラの2年前、1962年のリコーオートハーフのブームの影響が大きく、他メーカのハーフ判カメラにも採用された(キヤノンダイヤル35など)。

このカメラはセレン式のプログラム自動露出を備えており、F2.8, 1/30秒からF22, 1/250秒までの間で露出が自動的に決まる(つまり絞り6段の変化の間にシャッター速度が3段変化する、2:1の勾配のプログラムラインを備えている)。この優れたプログラムラインのどこでシャッターが切れるのかは、ファインダ内の表示で確認できる(絞り値とシャッター速度の両方が記されている)。また、レンズ周りの絞り指標をAから外すと絞り値が自由に選べ、このときシャッター速度は1/30から1/300秒までの間(4段階に加えてバルブもあり。上の写真のフジカドライブのほうでシャッター速度指標が見える)を自由に選ぶことができる。つまりフルマニュアルでも使用することができる(ただし露出計は動作しない)。絞りをAに戻すとシャッター速度指標も自動的にAに戻るなど、非常によくできていて、使いやすい。

レンズは2.8cm F2.8 のフジノン銘となっており、4群5枚とのこと。ハーフ判カメラはビハインドシャッターが多いが、このカメラはビトウィーンシャッターである。ただし前玉回転式となっており、これによる収差の発生を避けるべくレンズ枚数を増やしたのかもしれない。最短撮影距離は0.6mで、レンズ口径も10mmあるので、ハーフ判とはいえ、近接すると背景もそれなりにぼかすことができる。

フジカハーフにはF1.9の大口径レンズを装着した上級モデルも出現したが、フジカドライブには設定されなかった。ただ、このカメラに限らず、大口径モデルに比べてF2.8-3.5クラスのレンズを備えたハーフ判カメラはレンズ部分の突出が小さくて良い。

最初のオリンパスペン同様、ピント固定式でなくちゃんと距離目盛りの刻まれたレンズがついているハーフ判カメラは、本格的な写真撮影にも十分応えることができる。フジカドライブは、セレン式のプログラム露出にスプリングモーター巻き上げで、かなり自動化された感じのカメラなのに電池不要、というのも痛快なカメラである。巻き上げ音が、のちの1980年代の電気モーター式自動巻き上げカメラの音にそっくりなのが面白い(上の動画参照)。一方でフジカハーフはドライブより約100g軽く、静かに撮影できるというメリットがある。

FinePix S3 Pro(2004)

 フイルムメーカは一見、デジタル技術とは距離を置いているように見えて、実はデジタル化の波に一番敏感な立場だったのかもしれない。フィルム界の盟主コダックは撮像素子の分野でもパイオニアの1つで、特に大型のCCD素子では強さを誇ってきた。そして富士フイルムも独自に撮像素子を開発するメーカの1つである。従来は社内で素子の製造をも手がけていたようだが、現在は知的財産の蓄積を含む開発と設計に重点を置いているようで、素子の製造そのものは他社工場に委託しているとのことである。ともあれ、富士フイルムはハニカム配列という他のメーカに例を見ないセンサを長く採用しており、この S3 Pro は、ボディこそニコンの F80 や D100 の部品を用いているものの、やはり撮像素子は富士フイルム独自のものである。

 そのスーパーCCDハニカムSR-II という 1200万画素の撮像素子は、半分の 600万画素(S画素)は面積の大きな画素、そして残り半分は面積が小さな(感度が低い)R画素からなっている。そのため普通は白飛びしてしまって明るさや色彩が失われてしまうような被写体でもR画素では飽和せず、かつ暗い被写体に対してはS画素が有効に働くことでノイズの増加を抑えるようになっている。シーンのほとんどの箇所は中庸の明るさを持つが、その部分はR画素とS画素の双方でとらえられるため解像度も失われない。実際、このカメラで撮影した RAW 画像を適切な現像ソフトウェアで処理すると、完全に白飛びしていたと思われたところからもしっかり色彩が復元できるところは、他のデジタルカメラのダイナミックレンジに悩まされたことのある人には驚きに値するだろう。他の部分は決してできがよいとは言えないこのカメラを使う理由はこの点をおいて他にないといっても過言ではない。

 ボディはニコンの銀塩用のものを使っているため、レンズもニコンのレンズを用いる。つまり富士のカメラでありながら、富士フイルムのレンズが装着できないという変わったカメラだが、もしこのカメラ用に標準レンズの1本でも「フジノン」のレンズが販売されていたら、ニコンボディのユーザを含め、きっと人気商品になっただろうなという気がする。

FinePix F100fd(2008)

 このカメラは富士フイルムのデジタルカメラブランド FinePix の10周年記念モデルとして登場した、コンパクトタイプでは当時フラッグシップモデルとして発売されたものである。富士フイルムは従来、スーパーCCDハニカムの画素面積の大きさを生かした高感度・低ノイズモデル F30 や F31fd で一世を風靡したが、その後他社の追随により大きな差がなくなっていた。そこに再び高感度・低ノイズモデルとして登場したのがこの機種である。メディアは xD と SD のどちらでも使える。

 画素数は 1200万画素で、ちょっと無理しすぎの感はしなくもない。実際、もう少し少なくても良かったのではないかと思うことも多い。しかし素子のサイズが、通常よく使われている 1/2.3 インチクラスとは異なり 1/1.6 インチという大きなものが使われている。そのため同じ 1200万画素でも画素が大きく、相対的に低ノイズとなっている。

 素子が大きくなるとそれに比例してレンズも大きくなるが、このカメラではさほど厚くないボディに 28mm 相当から始まる5倍ズームを奢っている。しかも各種レビューによると、このレンズの広角側は同じ 28mm 相当のカメラの中でも格段に画角が広く、他社の 25mm 相当と大差ないレベルとなっている。望遠側が 140mm 相当まで伸びることもあって、大変便利なカメラである。もちろん手ぶれ補正も搭載しているし、使い方によっては ISO400 - 800 あたりまで実用可能だ。レンズもフジノンらしくかなりシャープ。他社の高級機に比べ凝った機能は搭載されていないが、オートで撮っても基本性能の地力を生かせるカメラだ。

 ちなみになぜ白黒2台あるかというと、長期海外出張中に使っていたデジタルコンパクトカメラの液晶画面が割れてしまい、先に帰国していた妻もちょうど自分用のカメラを紛失してしまったので、アクセサリが共用できるとか、使い方が分からないときに聞きやすいという理由でモデル末期で安くなったこのカメラを、2台同時に買ったからである。現在は F200EXR という後継機種がほぼ同じボディとレンズで発売されている。

EBC FUJINON EX90mm F5.6 / 105mm F5.6, FUJINAR-E 7.5cm F4.5

 これらは引き伸ばしレンズである。35mm 判の引き伸ばしにはニコンの幻の引き伸ばし機、RA-350 オートフォーカスを使っており、これはニコン純正の引き伸ばしレンズ EL-Nikkor 50mm F2.8 でその能力を発揮するので、これを組み合わせて使っている。では、中判ではどうかというと、最近はこのフジノンを使っている。ニコンの引き伸ばしレンズにも中判に対応しているものは多いのだが、製造中止になってしまい、現在新品での入手は難しい。

 入手の経緯は以下の通り。ある日、写真展用の引き伸ばしをしていたが、どうしても思ったようなトーンが出ず、全体にどことなくドス黒い雰囲気になってしまう。印画紙やフィルタを変えてもダメで、どうしたものかと調べてみると、当時使っていた 80mm の中判用引き伸ばしレンズが曇っていることが発覚。急いで代わりのレンズを買うことにした。が、店頭では状態の良い EL-Nikkor はなく、また上記のように曇りで痛い目にあったこともあって、思い切って新品を買うことに。そのようなわけで 90mm F5.6 を買ったのだが、その直後に非常に状態の良い 105mm F5.6 を中古店頭で見つけてこれも買ってしまった。フジナーは捨て値といっていい値段だったのでついでに購入。このとき富士の病を自覚したのだった。

 EL-Nikkor より柔らかい描写だとかいう評判があるが、残念ながら私の乏しい経験では実際にどれぐらいの差があるのかといわれると分からない。ともあれ、コーティングもよく、見るからに抜けの良いレンズは精神衛生上大変よいし、実際なんの不満もない。90mm F5.6 は、6x9判をカバーする引き伸ばしレンズとしては焦点距離が短く、引き伸ばし機の高さをさほど上げなくても大伸ばしできる(そのため、6x4.5 判などに使ってもさほど不自由しない)というので特に便利。どれも6群6枚の構成だそうなので、普通のガウス型の構成ではないようだ。

 この引き伸ばしレンズは、写真活動の入り口から出口までを完全に「緑の帝国」富士で揃えるという点でも意義深い。上のどれかのカメラに ACROS を詰めて撮影し、フジドールかミクロファインで現像、そしてこの引き伸ばしレンズでプリント。残念ながら富士の印画紙はあまり気に入ってはいないのだけれど。。これをやはり富士のフレームに額装し、富士フイルムショールーム併設のギャラリーで展示すれば完璧である。と言っていると、・・現像タンクが富士でなけりゃダメだからダークレスで現像せよという指摘を受けた。