軽快な標準機 スーパーイコンタシックス


左:スーパーイコンタシックスIII (531/16), 右:スーパーイコンタシックスIV (534/16)

二眼レフカメラの雄といえば、ローライフレックスである。では、スプリングカメラではどうか。そう問われると、多くのクラシックカメラファンは、ツァイス・イコン社イコンタを挙げるのではないだろうか。

一口にイコンタといっても様々なバリエーションがある。その中でもイコンタらしい機種というと、1934年に特徴的なドレイカイルプリズム式連動距離計を備えて登場した6x4.5判のスーパーセミイコンタと、その兄貴分とも言うべき6x9判のスーパーイコンタがまず思い浮かぶのではないだろうか。それらに対し、その間の画面サイズ、6x6判のイコンタは少々趣を異にする。初期の距離計なしのモデルは他の判のイコンタと同様の構造であったが、連動距離計付きのモデルは構造や設計がそれらとは全く異なるものであった。特に、重厚な作りにF2.8大口径レンズを備え、当時の価格も6x9判のイコンタよりも高かったという高級機「スーパーシックス」シリーズが正面を張るが、このページでは、それら陰でつい存在感が薄くなりがちな戦後型モデルである、より小型軽量の「スーパーイコンタシックス」シリーズを紹介したい。

上の写真で、左はスーパーイコンタシックスIII (531/16)、右はそれに露出計を追加したスーパーイコンタシックスIV (534/16)である。これらのモデルの特徴として、他のスーパーイコンタには備わるドレイカイルプリズムを使用していないことが挙げられる。つまり、他の多くの距離計連動式6x6判スプリングカメラと大きく変わらない構造になった。しかしそれが、使いやすさや軽さにつながっていることも事実である。

他のイコンタではドレイカイルプリズムを用いることで、レンズとボディとの間の機械的連動なしに距離計の連動を実現している。それではこれらのモデルではどうかというと、あっさりそのコンセプトを捨て、機械的に連動を行っている。ただしこれらのモデルでも、依然としてピント合わせは前玉回転式である。フォーカスリング (a) を回すと前玉が前後しつつ、その回転角がレバー (b) を経由しシャッター後部のリング (c) に伝わる。リング (c) にもギザギザが付けられており、ここを操作することでもピント合わせが可能である。そして、そのリングの下部はカム状になっており、(d) を経由してレバーを上下に動かす。レバーは支点 (e) を中心に回転するようになっており、(d) の上下動が拡大され (f) でボディへ向かうレバーにつながっている。

このように、上手に前玉の動きをボディに伝えているのであるが、要するに、過去、あれだけ忌避してきた機械的連動を、あっさりとスマートかつ確実なメカで実現してしまっている。これが出来るのであれば、レンズから飛び出したドレイカイルプリズムなど不要だったのではないかと思わせるし、実際、戦前のスーパーシックスに比べ、最短撮影距離が 1.2m に短縮されていることも見逃せない。反射・屈折面が少ないだけに距離計像もクリアである。

2つの機種の相違点

534/16 は 531/16 にセレン式の非連動露出計を搭載したモデルである。ここでは露出計の他の、気づきにくい相違点について紹介する。

まずは外観であるが、534/16 では軍艦部正面に露出計のセレン受光窓があり、また左肩に露出計のメーターとダイヤルが備わっている。しかし、軍艦部(アクセサリシューが取り付けられている部分)の高さが変更されていないのはよい。534/16 は 531/16 より2年ほど遅れて登場したが、531/16 のときから露出計を備えることを考慮して設計されていたのではないかと思われる。

しかしよく見ると、巻き上げノブの高さが変化している。531/16 ではノブが軍艦部の高さに収まっているのに対し、534/16 では少し高められて飛び出している。デザイン上の観点から、反対側の露出計の高さに合わせて少し高さを上げたのではないかと思われる。実際、巻き上げ部分のメカに大きな相違は見られない。

次の相違点はシャッター部分である。534/16 の露出計にはEV値が表示されるので、それに合わせてシャッターがライトバリュー連動タイプに変更されている。これは当時の流行りであったとはいえ、今となっていは使いにくいと評されることが多い。なお 531/16 もシャッター速度・絞り値の目盛り間隔そのものは 534/16 と同様の等間隔目盛りとなっている。531/16 ではシャッター速度と絞り値が独立に操作できるだけでなく、リング (a) によっても絞りを動かすことが出来るが、534/16 ではレバー (b) を少し外側に引いて連動を解除しながら絞り値を変更することになる。

このシャッターの変更に伴う変化として、絞り羽根の枚数が減少している。531/16 では絞り羽根が10枚で円形に近い形状を保つのに対し、534/16 では5枚に減らされている。ローライフレックス2.8Cとそれ以降でも同様に、ライトバリュー連動と同時に絞り羽根の枚数が減っており、1955年頃の事情というべきものである。

スーパーイコンタシックスの大きさと重さ

スーパーイコンタシックスシリーズは重量が約700gとなり、戦前のスーパーシックスシリーズ(約1kg)に比べて大幅に軽量化された。もしかしたら、連動距離計と自動巻き止めを備えた6x6判カメラとしては最軽量なのではないか?そう考えて重さを測ってみた。

比較対象は、やはり小型軽量な6x6判カメラであるスーパーバルダックスとする。手持ちのデジタル秤で計測した結果は以下の通りである。

機種仕様重さ
Super Baldax 旧Prontor-SVS, Balda Baldinar F3.5695g
旧Prontor-SVS, Schneider Radionar F2.9686g, 693g
Synchro-Compur, Enna Ennit F2.8689g
新Prontor-SVS, Balda Baltar F2.9667g
Super Ikonta 534/16, Tessar F3.5706g
531/16, Tessar F3.5672g

先に入手したのが 534/16 で、露出計を備えるにも関わらず約700gと軽量であったため、追って 531/16 を入手した。測ってみると思った通りに軽量で、これは・・と思い、スーパーバルダックスを全て引っ張り出して測り直してみたところ、伏兵と言うべきか、シャッター回りのいくつかの部品が真鍮からアルミに変更されていると思しき、新 Prontor-SVS 搭載モデルが最軽量であった。しかし 531/16 の軽さも捨てがたく、特にモデルを選ばずとも軽量であるというのは大きい。もしかすると、Novar レンズ搭載モデルであれば再逆転のチャンスもあるかもしれない。

戦後のイコンタは大きさも小さい。こちらで比較しているように、良く似たデザインのマミヤシックスシリーズよりもかなり小型である。ただやはりスーパーバルダックスよりは少し大きく、特にボディ幅が異なる。スーパーバルダックスはハンドストラップの金具を利用して吊り下げることが出来るのに対し、イコンタでは取り付ける部分がないことも実用上の大きな違いである。機能面ではレンズが全群繰り出しか否か、部品の点では、スーパーバルダックスは大型の0番シャッターと大口径レンズを備える点(戦前のイコンタシックスと同様の明るさのレンズを備える点)が大きい。なおどちらも、最短撮影距離は1.2mである。

試写結果

いつもの神社で試写を行った。

開放絞りでの撮影例である。さすがはテッサーであり、開放から高いシャープネスを持つ。不自然に流れたりもせず、ぼけも美しい。

こちらはF11程度に絞ったときの例で、申し分のないシャープネスを持つ。

よく用いるF5.6近辺で撮影したときの例である。立体感にも優れ、高品位な映りである。ただし前玉回転式であるため、ピントに注意するあまり、フォーカスリングに手を添えて撮影すると指が写り込んでしまうので注意が必要である(画面右下の明るい部分は指の映り込みのために生じている)。

同じくF5.6近辺で撮影した中距離の例である。距離計も信頼でき、撮影結果が安定したカメラであるという印象を持った。

最後に。この頃の自動巻き止めを備えたカメラは、現代のフィルムではコマ間が詰まってしまうと言われる。その原因として、スプールの軸が細くなったこと、フィルムの厚みが薄くなったことが挙げられる。実際、このイコンタ(531/16)に薄手のフィルム(今回の場合、富士フイルムのACROS100)をマニュアル通りに、スタートマークを合わせて装填し撮影すると、上の例のように最後の方のコマではコマ間がなくなってしまう。ただし、大きくかぶってしまうことはない。画面開口部がフィルム面から離れているために、画面の左右には徐々に暗くなる部分が発生し、かぶるのはその範囲なので大きな問題にはならないが、やはりよく言われるように 5cm ほど余分に巻き取ってから撮影すると少しマージンが出来ると思う。

スーパーイコンタシックスシリーズは自動巻き止めでありながら、他のスプリングカメラと同様に背面に赤窓のような蓋が備わっている。しかし、実際には小さな穴が開いているだけで、その穴が小さすぎて裏紙の数字を読むのはほぼ不可能である。フィルムが入っているかどうかを確認するための窓という位置づけだそうだが、よくインターネットオークションでは「赤窓が欠品している」などと間違って紹介されていることがあり、安価で買うことが出来たりする。