機械式7セグ時計

ポイント

コンセプト

機械式の7セグメントディスプレイや、それを用いた時計に関するチャレンジはこれまでにも多数発表されている。しかし、その多くは多数のモータを用いるものである。たとえばこれは1つ1つのセグメントにサーボモータを取り付けているし、そもそも(ホビー用ではなく、日中屋外の視認性などを目的に作られた・・といっても今や、すでにホビー用でしかないが)市販品の機械式7セグ表示ユニットも1つ1つのセグメントに電磁石が使われている。これを自作するのはかなり面倒だし、制御する回路も大規模になってしまう。

1つのモータで複数のセグメントを動かすものも、すでに存在する。例えば、こちらの例はうまく設計されているがかなり大型で、しかも部品点数が多く複雑。それに桁の間は連動しておらず、個々のユニットがバラバラに制御される方式である。こちらの例はどちらかというと美しい動きや見た目の面白さを追求したもののようで、表示部に対して制御部がかなり大きい。それにやはり、1桁が独立している。それでは、時計に必要な4桁の数値表示を、たった1個のモータで完結できないか?と思って作成したのがこの時計である。

設計

この時計を作るにあたり、まず必要なのはシンプルでうまく動く1桁分の表示ユニットを作ること。いろいろ検討し、結果的にPeter Lehnér 氏の手法を参考にすることにした。

彼の方法(上の動画の後半で見られる)では7セグの8の字の輪の中に1つずつ軸を持ち、その軸まわりにカムを回転させることで表示を行う。なかなか合理的な設計だが、動画を見る限りでは摩擦が大きいようだ。主な原因はセグメントがスライドする溝の設計にある。カムは対象を押し出すだけでなく、回転方向に引きずる力がかかるので、セグメントをねじる力が加わってしまうためだ。これを解決するには、できるだけスライド面の長さを長くとって、ねじる力を相対的に弱める必要がある。具体的には、セグメントから棒を内側に伸ばし、その棒がスライドする溝を長く取ることでねじれ力に対する滑り性を向上させた。セグメントを復帰させる(カムに押し当てる)ためにバネの要素も必要になる。これも3Dプリンタで作ろうとして、いろいろと柔軟性のある構造を試したが、結果的には安定性と小ささを両立することが難しいと判断し、単純に輪ゴムを用いることにした。

各桁の構造はそれぞれ異なる。1分の桁は0〜9の10通りの表示だが、10分の桁は0〜5の6通りで、5のつぎは0に戻る。これを同じユニットで実現するのは難しいので、停止位置を10ポジション(上の図のピンク色のカム)から6ポジション(同 青色のカム)に変えた専用のカムを設計し直した。さらにやっかいなのは時間の桁である。ここを2桁に分けるのは設計が非常に難しい。2時のつぎは3時だが、12時のつぎは1時に戻らねばならないからだ。よってここもカムの設計を12ポジション(緑色のカム)に変えて1〜12時の表示とし(0時はない)、時間の2桁分を同じカム軸で駆動する仕組みにした。カム軸は上下に2本、それぞれに4枚のカムがあるので、8つのセグメントを制御できる。それに対し7セグは7つしか必要ないので1つ余る。これを10時間の桁(なにもないか、1を表示するかのどちらかである)の制御に使用した。上下に2つのセグメントがあるが常に同時に動くので、カムは1つでよい。

桁間の連動も必要になる。ここではゼネバ機構を用いることにした。このゼネバ機構では、下の桁が1回転すると、上の桁が1/6回転するような機構になっている。これだと1分の桁から10分の桁への繰り上がりは問題ないが、時間の桁への繰り上がりには使えない。そこでゼネバ機構の次に1:2の減速歯車を置くことで、上の桁(時間の桁)が1/12回転するようにした。回転方向が軸によって時計回りだったり反時計回りだったりするので、それも考慮してカムを裏返しで使うようになっている。さらに時刻合わせの仕組みも必要である。1分ずつ進める方法では素早く時刻合わせができないためだ。そこで中央のゼネバ機構の軸にネジを取り付け、それを緩めることでゼネバ機構を退避できるようにした。こうすることで各桁間の連動が切り離され、手動で各桁を動かすことが出来るようになる。

すべての部品をサポートなしでプリントできるように設計したため、カムはそれぞれ1枚ずつバラバラとなり、部品点数が膨大となった。すべての桁が変化するときの負荷がかなり大きいので、サーボには小型のものではなく通常サイズのものを用い、ラチェット機構で1分ごとに回転させる仕組みにした。

製作

作ってみて感じたのは、単に1桁だけのユニットを作るのとはかなり違うということである。すべての桁が変化するときの負荷の大きさもそうだし、時間表示ならではの問題、つまり12時間・60分という変則的な繰り上がりが問題をかなり複雑にし、共通設計を阻んでいる。しかしそれゆえ、このように全桁を機械連動させる例が少ないのだということは理解された。ホビー界隈や3Dプリンタでの制作例が、1桁の製作までにとどまっていたのはそのせいだろう。とはいえ、もっと広く見ると先例がないわけではない。超高級腕時計では de GRISOGONO の Meccanico dG が、同様の7セグメント機械式時計を実現している。やはり同様に時間の2桁は一括で制御されている。

なんとお値段は3000万円を超えるとのこと。それに対し私の時計は、大きさも仕上げも素材も、何もかも違うが、似たような機構がわずか数千円の材料代で作れるのは痛快だ。

例によって3DデータとプログラムはThingiverseで公開している。さすがにこの時計を作る人はなかなかいないかな・・と思っていたが、チャレンジされた方があった。以下の動画で紹介されている。

なおその後、より洗練された設計の7セグユニットを制作した。ただしこのユニットをもとにした時計はまだ作っていない。