尺度の多い金属製計算尺 Pickett N3-T

Pickett N3-T は,様々な計算尺を多く手がけた米国を代表する計算尺メーカー Pickett の製品の中でも,尺度の種類が多く高機能な計算尺に分類される.尺度はなんと32を数え,Faber-Castell 2/83N を超える.実は後継機種である Pickett N4 はさらに尺度が多く,N16 のような特殊用途向けの計算尺を除く汎用の計算尺としてはもっとも尺度が多いものであると思われるが,N4 は後に述べるように少し標準から外れる仕様となっているため,普通に使える計算尺としてはこの N3 が最も尺度が多い計算尺であるといえるかもしれない.

Picket N3/N4 の特徴として,平方根・立方根を高精度に計算するための尺度を持つことが挙げられる.もっとも A/B 尺や K 尺でもこれらは求めることができるし,任意のべき乗はLL尺で計算可能なので必要性は高くないと思われるが,それらを度外視しても,表には K A [B ST S T1 T2 CI C ] D DI が置かれ,裏には LL0/LL00 LL1/LL01 DF [ CF CIF Ln L CI C ] D LL2/LL02 LL3/LL03 が置かれており,汎用計算尺として不足はない.惜しむらくは,Pickett の計算尺にはP尺がないことだろうか.

前述のように,Pickett には 34 もの尺度を持つ Pickett N4 が存在する.しかしこの計算尺は少し特殊で,LL尺が常用対数(底が10)に基いて刻まれている.このためLL尺の最大値が 1010と大きいのは良いのだが,LL1 や LL0 の左側が 1.01, 1.001 に合っておらず読みにくい上,x が 0 に近いときの近似式 ex ≒ 1 + e をLL尺と組み合わせることが出来ない.またこの面の CF/DF 尺はπ切断でも√10切断でもないことや A/B や K 尺がないこと,そのかわりに使用する機会がほとんどなく,exからでも計算できる TH/SH が置かれていることなど,あまりバランスの良い計算尺であるとは言いがたい.

PIckett というと,目にやさしいという触れ込みの黄色い計算尺 (Eye-Saver : ES) がトレードマークのようになっているが,このような白い計算尺も同時にラインアップされているものがある.この N3-T のように,-T がついているものが白色で, -ES が付いているものが黄色である.どちらもつや消しで,文字や目盛りもくっきりしており見やすい計算尺であると思う.またカーソルも合理的な作りで,Pickett N16-ESと同様に滑尺の動きもよく使いやすい.ケースもしっかりしたもので,金属製計算尺の弱点である歪みが生じないようにできている.Pickett の計算尺は尺度の多さに対してコンパクトで,オーバーレンジがないかわりに幅がむやみに広くない点も美点だと言えるだろう.