連動距離計を備えたセミ判カメラ 小西六 パール
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デジタルカメラが普及して、以前は1時間待つだけでよかった35mmフィルムの現像とプリントが、今では街からすっかり消えた。そのことで逆に、中判カメラの魅力が増してきたように思う。セミ判、つまり6x4.5判でも35mmフルサイズの約2.7倍の面積があり、画面の縦横比が印画紙に近いこともあって画質に余裕がある。1本のフィルムで15〜16コマしか撮れないという点も、連写するような写真は全部デジタルカメラで撮っていることもあって、35mmフィルムの36コマよりも使いきりやすくてかえって良い。個人的には、半切ぐらいに伸ばすことが多い写真展に必要な画質や、暗室作業の容易さ(現像・引き伸ばし作業のしやすさ)から、自宅でのDPEはすっかり中判ばかりになっている。
中判カメラのもう1つの面白さに、カメラ形式のバリエーションがある。画質や汎用性を追求した一眼レフや速写性に優れた距離計連動カメラの他に、二眼レフやプレスカメラなど35mmではあまり見かけない形式も豊富にあって楽しい。フィルムサイズが35mmよりも大きいことから、どうしても大柄なカメラばかりのような気もするが、実は35mmカメラの普及が進む1960年頃までは中判にも小型化を強く意識したカメラもあった。それがスプリングカメラであり、国産645判(セミ判)スプリングカメラの雄が、ここで紹介する小西六写真工業(コニカ)のパールである。
パール発展の歴史を詳しく紹介すると長くなりすぎるので、戦後型についてかいつまんで紹介すると、単独距離計がついたI型、RS型に対し、連動距離計(レンズと距離計が機械的に連動しており、距離計を合わせるとピント合わせが完了する形式)を備えたのがII型である。さらに、フィルム1コマ分の巻き上げ量を機械的に決める「巻止め機構」が付いたのがIII型、根本的に設計し直すことでブライトフレーム入りファインダや二重撮影防止機構を備えた最終型がIV型となる。ここではII型とIV型について紹介する。
パールIIと、その搭載レンズについて
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パールIIはパールRSと同時に発表されたと言われている(ただし発売はRS型よりも後の1951年1月となった)。発売当初、パールIIはパールRSと同様に 75mm F4.5 のヘキサーレンズを搭載していたが、発売から約1年後の1952年4月から、より明るい 75mm F3.5 レンズを搭載したモデルがラインナップに加わる。しかし価格差が1割少々しか違わなかったためか、今日多く見かけるのは F3.5 のレンズを搭載した個体であり、F4.5 のレンズを搭載したものは少ない。いずれのレンズもその性能に定評があり、F3.5 も他社の同等のレンズ(テッサー型のF3.5レンズ)に勝るとも劣らないものであるが、一部では特に F4.5 の描写が極めて優秀であるとも言われている。ただし F4.5 レンズのほうには、レンズ前枠内側(銘板の外側)にはフィルタ取り付けネジが刻まれておらず、銘板内側のネジにフィルタを取り付けることが前提となっているようだ。描写特性の差異についてはのちに検証する。
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これら2モデルはレンズの部分以外に特に差異はないが、もちろんトップカバー内の被写界深度指標板はそれぞれの機種専用に作り分けられている。さらに今回紹介する2台では、F4.5 レンズを搭載した個体のほうのみ MIOJ (Made in Occupied Japan) の表示がある(もう一方の個体では、張り側から生産国表示がなくなり、トップカバー背面、接眼レンズ脇に Made in Japan と刻印されている)。
私は個人的には、パールの中ではこのII型が好きだ。III型になると巻止め機構がつくが、これがボディの底側についていて、なんとも安定感の悪いフォルムになっているのが気に入らない。トップカバー側にはアクセサリシューがあるだけなので、上部(距離計側)に巻き上げ機構をつけていてくれればよかったのに、と何度思ったことか。またIII型では巻止め機構がシャッターと連動しておらず(つまり、二重露出防止機構が付いていない)、誤って多重露出や空送りをしてしまう。個人的には、中期以降のイコンタのように赤窓式であっても二重露出防止機構が付いているほうが、自動巻止めよりも気楽に撮影ができて好みである。II型にも二重露出防止機構は搭載されていないが、赤窓式は巻き上げ作業に意識が向かいやすく、それに比べ巻止めが付いているとミスを犯しやすい。
パールIIとIIBについて
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上に写真を掲載した2台のパールのうち、左に写っているものはパールII型で、右側はそれと混同されやすいIIB型である。IIB型はII型よりも後から発売された簡略形であり、レンズ鏡筒に距離指標が設けられた。また、レンズはF3.5のみとなった。
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かわりに、II型ではトップカバーに機械的に表示されていた距離目盛りが省略され、IIB型では手動で円盤を回転させる形式の被写界深度指標になった(この手の指標を実際に使っている人は少ないのではないか)。人によってはIIB型の方が使いやすいというのではないかとも思う。
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II型とIIB型のもう1つの違いはシャッターである。II型(1952年発売)で採用されていたKONIRAPID-Sシャッター(最高速 1/500秒)は、DURAX-Sシャッター(最高速 1/400秒)にダウングレードされた。どちらも最高速は(コンパー・ラピッドシャッターと同様に)補助スプリングを使用しているために使いづらく、シャッターチャージした後では切り替えができないので注意が必要である。
小西六写真工業はこのころ、中判カメラであるパールと平行して、35mmカメラのコニカを製造販売している。「コニカ」の名称は、(ライツのカメラがライカであったのと同じように)小西六のカメラであるからそのように命名されたのだと思われるが、その後、このカメラの名前が社名になるのは、ニコン(日本光学)やキヤノン(精機光学)と同じ流れだと言える。
パールIVについて
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パールは最終型であるIV型(1958年)になると巻止め機構に加えて二重露出防止機構が組み込まれ、ファインダに採光式ブライトフレームが備わるなど大きく進化する。巻き上げノブがトップカバーに移動して使いやすくなったことのほか、ボディ下部に備わるスプール軸の引き出し機構なども良く出来ており、蓋が開く方向が逆になって縦位置では右手でシャッターが切りやすくなったことなど、使い勝手も向上している。しかし、どうせなら
マミヤ6オートマット(1956年)や
フジカGS645(1983年)のようにセルフコッキングも備えて欲しかったところだが、残念ながらそれは備わらない上、II型に比べて2割ほど重くなっている(約715g)。さらに II, III 型に比べ市価が非常に高価であることも難点といえるだろう。最近(2010年代)になってようやく価格が落ち着いてきており手を出しやすくなってきたが、軽快さではもはや、元のパールとは別物である。パールに関しては、敢えてあまり欲張らず、II型で赤窓を見ながらゆっくり巻き上げつつ撮影するのが最も美しいと思う。
パール用のオートアップについて
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パール用には、専用の接写アクセサリ「オートアップ」が発売されていた。詳細は
オートアップのページを参照して欲しい。このアクセサリはパールI/II/III型用と、パールIV型用が別製品となっている(取り付けネジの位置が反対側に移されている。詳細は
こちら)。よって、パールI/II/III型用は本来、パールIVに装着することは想定されていない。だが、限定された条件下ではパール IVでも使用することが出来る。まずファインダ・距離計の窓と補正レンズの位置関係であるが、パールIVはその左右が入れ替わっているものの、位置はほとんど変化していないため問題なく、きちんと距離計像が補正される。ただし、オートアップをレンズに固定する部分のつまみが、パールIVの蓋のフックに干渉する。
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フックとの干渉度合いはレンズの繰り出し状態により変化する。上の写真(左)のように、薄手のフィルタ(右、レンズ先端の黒色部分)を取り付け、またレンズを最短撮影距離まで繰り出している場合は、取り付けつまみは蓋のフックに干渉することなく使用することが出来る。より厚みの厚いフィルタを用いれば、最短撮影距離付近でなくてもオートアップの使用は可能であると思われるが、フィルタを外さなければ折りたたむときに前蓋に干渉する可能性があることに注意されたい。
パールII作例(ヘキサー 75mm F3.5)
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中距離で比較的レンズを絞った時の作例。特に中央付近は十分にシャープで、コーティングのためコントラストも高い。
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同じく中距離であるが、少し絞りを開いて撮った写真。左上や左下のように、画面の隅が合焦距離より遠距離になると、非点収差の影響で若干、円周方向に流れたような描写になる。
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最短撮影距離付近の描写。パールは前玉繰り出しでなく全群繰り出しのため、近接時の性能低下はわずかである。ボケ量が大きくなることもあって周辺部の描写も気にならず、コントラストの高い良好な描写で、自然なぼけによる立体感も高い。
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比較的絞って遠景を撮影。全体に均質で良好な画質である。ただしやはり非点収差の影響があり、右下のように画面の隅で近距離に物体があると、放射方向に流れる傾向がある。画面の端でサジタル像面とメリディオナル像面が乖離していると思われる。
ヘキサー F3.5 と F4.5 の比較
ヘキサー F3.5 の明るさは悪条件での撮影に力を発揮する。それに対し、ヘキサー F4.5 はテッサー型のレンズとしては控え目な口径比であり、その余裕から収差がより小さい事が多い。そこでここでは、これらのレンズで比較撮影を行った。ただしレンズには個体差があり、特に発売から長時間を経た現在ではその間の経年変化の影響も大きい。また中判カメラではとくにフィルム浮動の影響も大きく再現性のある比較が難しいため、参考程度としていただきたい。
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左がヘキサー F3.5, 右が F4.5 で、どちらも F4.5 に絞って撮影している。ピントは中央の物置の付近に合わせた。どちらも一見してシャープな描写であるが、拡大するとF4.5のほうが全体にシャープであり、中央部分にも差が見られるほか、画面の左方では特に F4.5 の描写が優れている(それに対し、画面の右方では大きな差がない)。
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両者を F5.6 に絞り、2m 前後の距離の被写体にピントを合わせた例である。立ち位置が少し異なるために構図に差が出てしまっている。やはり全体にF4.5レンズ搭載モデルのほうがシャープな描写で、構図が異なること、立体的な被写体であることからピントが合っている位置が両者の写真で異なるが、ピントが合った位置同士で見比べるとやはり、F4.5 レンズのほうが全体にシャープな描写であるといえそうだ。ただしどちらもコントラスト、立体感に富んだシャープな描写であり、暗所での安心感を考えるとF3.5も捨てがたい。
カール・ツァイスがテッサー型レンズを発表した当初の明るさは F6.3 であった。その後次第に明るさを増し、戦前のスプリングカメラやハンドカメラには F4.5 のレンズを搭載したものも多い。それに対し戦後のものではほとんどが F3.5 となった。よって反射防止コーティングが施された F4.5 のテッサー型レンズはほとんど存在しない。そのような中で、パールのF4.5ヘキサーは貴重な例外の1つであると言えよう。
パールIIの整備
パールは構造が単純なため初心者でも整備しやすい。距離計の左右ずれ(距離方向のずれ)は、レンズ脇の距離計連動部のネジで調整ができる。縦ズレを直すためにはトップカバーを開ける必要がある。
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トップカバーを外すには、アクセサリシューを止めている3本のネジ、トップカバーの大きい方のネジ(小さい方は外す必要はないが、距離指標のガラス窓を掃除するためには外しても良い)、背面側のネジ、接眼窓を外せば良い。距離計の縦ずれを直すためには、上の写真の赤矢印のネジをわずかに締めたり緩めたりする。反射ミラー(固定式)の向きをわずかずつ変えることが出来る。この鏡は表面鏡のため清掃は慎重に行うこと(乾いたティッシュでごく軽くホコリをはらう程度にしておいたほうがよい)。
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距離計の動きが悪い時には、上の写真の赤矢印の部分の潤滑状態を確認する。古いグリスが固化していることがある。この下側にも距離計の動きに連動した溝があり、同時に潤滑状態を確認の上、古いグリスを除去して入れ替えると良い(このような部分では一般的に、CRC 5-56 のような緩い油は使ってはいけない)。
レンズ (Hexar 7.5cm F3.5)は、前からねじるだけで第1群、第2群をそれぞれ分離することが出来る。シャッターをバルブにすると後群の前面も露出させることが出来、簡単な清掃は可能である。
シャッターにも前玉を外すと簡単にアクセスできる。ただしコンパー・ラピッドタイプのシャッターの構造と整備に詳しくない場合は手を入れないほうが賢明である。