3軸デジタル時計 Triaxial Numechron

ポイント

コンセプト

これまでたくさんの時計を作ってきた。デジタル時計はWiFiに連動する円筒形のこちらこちら、またアナログ時計は針が浮いて見えるHollow Clock 4が機能的で、部品点数も少なく作りやすい。しかし、自分はどうも合理的な設計に魅力を感じやすい傾向があるようなのに対し、アクセス数などを見ていると、クレージーなもの、例えばニョキパタ時計Digital Crazy Hours and Minutesに人気があるようだ。そこで久々に、少し変わった時計を作ってみた。

俎上に上がったのが、上の動画のような Numechron タイプのデジタル時計である。Numechron はもともと1950年前後に米国 Pennwood 社が多数製造していた時計のことで、時間、10分、1分の桁を担当するドラムがそれぞれ回転することで時間を表示するものだ。これをそっくり3Dモデル化したのが上の動画のもので、6年以上前に3Dモデルも公開されている。しかし、これと同様のものをそのまま作るのでは芸がない。また、Numechron は合理的ではあるものの、必然的に3つのドラムの大きさがまちまちとなり、見た目に美しくない。Pennwood の当時の Numechron は凝ったケースに収められているが、自作モノとしては構造が見えるようにしたほうが楽しいので、ちょっと煮えきらないところがある。そこで、3つのドラムをそれぞれ別の方向に回転させることを考えた。

秒を表す円筒は省略し、残る3つの円筒・円盤をXYZ軸それぞれに割り当てるとすると、配置はどのようなものがいいか。3つの桁を横に並べる関係からすると、縦軸回りの円筒が一番じゃまになるので、これを細くしたい。文字数が一番少ないのは10分の桁なので、これを縦軸回りとする。残る2つはどちらの配置でも作れそうだが、10分と1分の桁の文字は近づけたい(それに対し、時間と10分の間はコロンを置くことで間隔を広げても良い)ので、それに適した構造として上のような配置に決めた。一番頻繁に動くのは1分の桁なので、それが正面を向いていると動きが大きくて面白いということもある。

今回の設計でもっともオリジナリティがあり、またこだわったポイントは各桁の間の繰り上がりメカである。繰り上がりと、回転方向の変換を1つのメカで完結させたい。そこでそれぞれの軸の配置に応じて、安定して動作する構造を考えた。特に1分から10分の桁への繰り上がりは、上の動画のようにカムの横からピンが入り、下へと抜ける変わった構造としている。この構造により、10分の桁の位置決め精度を高められる。10分から時間への繰り上がりも単純構造にしたかったが、各表示部の配置の関係で、歯車を一組使う必要があった。10分の小さい円筒はできるだけ時計の前面に近づけたいが、そうすると回転するピンが1分の位の円盤にぶつかるためである。見やすさや美しさのため、部品同士の干渉を避けつつ、全ての桁の表示面がほぼツライチとなるよう設計した。

時計には時刻合わせの仕組みが必要である。この時計では各桁同士がほとんど干渉することなく自由に回転できる(例外は、10分の桁が5になっているときであるが、その場合でも時間の桁を回して差し支えない)。結果として、クレイジー味のある見た目のわりに、ちゃんと実用性のある時計になった。複雑な割には視覚的にノイジーな要素が少なく、見た目の評判もいいようである。隠すのが難しかった左下の歯車も、花がくるくる回っているようでかわいい、という自分にはない感性からの感想ももらった。例によって3DデータとプログラムはThingiverseInstractablesで公開している。すべての部品が18cm四方に収まるよう設計したので、ぜひ作って試していただきたい。