Hollow Clock 4(空洞時計4)
ポイント- 磁石で時針を引きつけて浮かす構造
- ウォームギアを用いた小さな減速歯車機構
コンセプト
文字盤部分が穴になって抜けている「空洞時計」シリーズはこれまでに3作となり、Hollow Clock 3ではとうとう、時針が周囲の枠とはつながっていない構造を実現した。台座もスマートで小さなデザインになり、もう次はないかなと考えていたが、今回新たに Hollow Clock 4 を作成した。その理由の1つとして、さらに小ぶりの時計を作りたいということがあった。というのは、最近、電子制御の切削機(CNCルータ)を導入し、これで木製の Hollow Clock を作りたいと思ったからである。しかし、この装置で切削できるサイズは3Dプリンタより小さく、Hollow Clock 3 のサイズでは少し厳しい。かといってそのまま縮小すると中央部分の歯車機構の造形が難しくなる。そもそも、中央部分の歯車を収めた丸い部分が割と大きく、ここをもっと小さく出来たらいいのにな・・と考えていたこともあり、イチから作り直すことにした。
中央に歯車を搭載しないとなると、磁石で時針を引き寄せて回す方法が考えられる。試しに買っていたネオジム磁石で実験すると、1cm少々であれば十分に浮かすことができることが分かった。しかし、円筒形の磁石をそのまま向かい合わせに配置すると、幅を取るので針が細くできない。そこでいろいろ別の配置がないか検討して、上の写真のように3つの磁石をT字型に配置する方法に決めた。この方法だと針がずれると反発力も生じるので、普通に磁石を向かい合わせにするよりも定位置に保たれやすく、重力による位置ずれが軽微となるようにも思われた。
もう1つのこだわりポイントが下部の駆動部分で、時針と分針の回転速度の比率 1:12 を実現する減速歯車機構である。Hollow Clock 2では一般の時計と同様に平歯車を用いた減速機構を用いているが、これだと歯車の直径がどうしても大きくなってしまう。かといって歯車を小さくすると1つ1つの歯が小さくなってしまい、3Dプリンタでの造形が困難になる。Hollow Clock 2は初代の Hollow Clockよりも台座の背が高くなってしまっているのはそのためだが、これをなんとかしたい。そこで上の写真のように、ウォームギア(螺旋状のギア)とベベルギア(傘歯車)を組み合わせた 1:12 の減速歯車機構を考えた。こんな機構を時計に使った例はなかなかないのではないかと思う。さらに、モーターを駆動するドライバ回路とマイコン(Arduino nano)も台座に押し込んで、一体化した。今回の Hollow Clock 4では初代・2代目と同様に、文字盤部分を抜き取って時刻合わせし、差し込み直すと時刻合わせが完了するというシンプルな時刻合わせ法も復活した。
全体、特に外枠の内側を面取りしたところ、デザインも高品位となり、また枠も細く見えるようになった。そこで次に、本来の目的である木での製作にとりかかった。CNCは3Dプリンタに比べて造形自由度が低い。オーバーハングが作れないとか、凹部にシャープな角を作れないなどといった制約がある。そこでデザイン段階から CNC で作れるようには考慮していたが、やはり3Dプリンタ用の設計のまま木を削ると割れたり欠けたりする。結果的に少しだけ肉厚にして切削し、組み立てた。樹脂でできた3Dプリンタ版よりも落ち着いた見た目となり大成功だが、3Dプリンタ版にはそれはそれで良さがあることも再認識した。
前作 Hollow Clock 3 では中央部の歯車機構の関係で「大きいほど作りやすい」時計であったが、今度の時計は磁石の引力の関係で「小さいほど作りやすい」という逆の特性を持つものになった。例によって3DデータとプログラムはThingiverseやInstractablesで公開している。